壁にそっと咲く2輪の朝顔の意味は
1階から2階へと向かう階段スペースの壁にそっと添えられている、2つの青い朝顔。
彩色を施した木彫の草木を空間の中に置き、その空間ごと作品とする、須田悦弘氏の展示だ。
展示空間としてこの場所の提案を受けた須田氏は、どこが良いかと考えていた時、非常口の表示が、この場にミスマッチで、後から仕方なく取り付けられている印象を受け、それが悲しくもあり、おかしくも感じたという。
「本来、無いほうが良いものも含めて空間だと思っているので、この非常口プレートのそばにしました。展示の季節が夏ということもあり、日本の夏の花である朝顔に決めました」と須田氏。
非常口プレート近くの朝顔に合わせるように、もうひとつの朝顔も右に曲がる階段途中の上部に配されている。
朝顔といえば、千利休の屋敷の露地に美しい朝顔が咲いているとの噂を聞いた秀吉が、朝顔を愛でる茶事を所望し、当日、秀吉が訪れると、露地の朝顔は一つ残らず引き抜かれ、茶室の床に一輪の見事な朝顔が設えてあったというエピソードがある。
利休が最もミクロなもので茶室をプロデュースしたように、1階から2階へと向かうこの静かな広い空間を、須田氏は夏の日の朝顔でプロデュースする。
非常口プレートを目印に、可憐な朝顔を愛でてほしい。
文・撮影=景山由美子