桃山~江戸時代の「南蛮漆器」に似た作品も

「雲龍庵」北村辰夫《聖杯》 2011年 撮影:渡邉修

 漆芸では、北村辰夫が率いる工房「雲龍庵」による超絶技巧作品に目を奪われる。漆と言えば「塗る」ばかりと思われがちだが、沈金や螺鈿、平文など、さまざまな加飾技法が、平安時代から工夫されてきた。しかしそれぞれの技術の専門性が高く、1人ですべての技法を網羅することができないため、北村がプロデューサーとなり、それぞれの技術を身につけた複数の職人との協働によって、ひとつの作品を仕上げている。

 個人の創作・表現に限定された近代の工芸のあり方とは異なる、近世以前の工房制作にも通じる方法論は、より自由で、創造的にも感じられる。

 また雲龍庵の顧客が海外に多いことから、作品には当たり前のようにユダヤ教の教義に則った祭具などが並ぶ。桃山~江戸時代、ヨーロッパからの注文で制作・輸出されたカトリックの祭具をはじめとする、「南蛮漆器」にも似たそのエキゾチックな表情は、いわゆるステレオタイプの「日本」的な漆のイメージを鮮やかに覆してくれるだろう。

 さらに伝統工芸としての「博多人形」とはまったく違う、桃山時代の遣欧少年使節を象った中村信喬の人形、詩情溢れる漆芸の山村慎哉、アニミスティックな鬼や妖精、動物を陶で形づくる野口春美、やはり陶を中心にオブジェを制作する中村康平らの作品を見ることができる。

左:中村信喬《羅馬聖光》 2006年
右:山村慎哉《鉄蒔絵羽根小合子》 2009年

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2012.06.23(土)