ジャニーズやAKB48を
取り上げなかった理由

山口 こうやってコラムを振り返っていると、4年弱のJポップを振り返っているみたいになりますね。

伊藤 そうですね。ここからは、前回に引き続きになりますが、今後のJポップについて話していこうと思います。いままでこのコラムでは“次に流行る音楽”というテーマでやってきましたが、実はジャニーズとAKBはほとんど触れてこなかったんですよ。なぜかというと、彼らのリリースするCDのほとんどがオリコンウィークリーランキングの上位に入るので、予想としては簡単すぎると思って避けてきました。

山口 まあ、そうですね。「嵐がオリコン1位になる!」って予測でも何でもなく、予定調和への同調ですからね(笑)。お約束事の追認になってしまいます。

伊藤 そうなんです。次に流行るというよりは、既にグループとしてブレイクしていて、CDを出せば必ず売れるというのが現状。それも一定のファンを持っている強みですが、ご存じの通りCDは音楽を聴くためのソフトでありながら、グッズやチケットに近い存在になりましたね。

山口 今、楽曲を聴くため「だけ」にCDを買うユーザーは少ないです。聴くだけなら無料のYouTubeがあるし、ストリーミングサービスの方が手軽ですから。でも、コレクションとしての喜びや、アーティストとの関係性、ライブなどでの記念品としてパッケージの価値は残っているし、そんなに簡単になくならないと思います。アメリカでもCD市場は落ちているけれど、アナログレコードは伸びているなど、フィジカル市場は単純に衰退をしているわけではないんです。

伊藤 そうですけど、音楽を作っている側からすると、せっかくプレスされたCDが一度も聴かれずに保管されたり、売り買いされたりするのは悲しいようにも思いますが。

山口 作り手側としてはそういう気持ちにもなりますが、「着ないで取ってあるTシャツ」って大事にしていることになりせんか?(笑)  持っていることが価値。ファンとアーティストのエンゲージメントの証という側面もあるんです。

伊藤 まあ、そうなんですけどね。あとジャニーズやAKBはビジネスとして考えると巧妙ですよね。音楽が売れないと言われている時代に、音楽を軸にしたビジネスでこれだけ成功しているわけですから。CDの売り上げだけでなく、コンサートやグッズ、ファンクラブ、タレント活動、俳優業、その他の興行など、音楽と密接に繋がったエンターテイメント全般がすべてビジネスになっているんですよね。

LDHが成功させた
プラットフォーム型ビジネス

三代目J Soul Brothers「Summer Madness」(2015年7月8日発売)

山口 その通りです。業界用語で360度ビジネスという言葉があります。アーティストを中心に、コンサート、ファンクラブ、グッズなどなど全方位でマネタイズしていくのが、これからますます大事になります。

伊藤 ジャニーズとAKBの共通点は、一つのアーティストやグループだけでなく、多くのグループがいて、それらが一つの大きなブランドとして存在していることですよね。これって世界でも他に例を見ないアーティストの形だと思います。AKBはガールズアイドルグループとして、秋元康という圧倒的プロデューサーを擁し、ジャニーズはボーイズグループとしてジャニー喜多川という軸を持っている。

山口 今時な言い方だと、プラットフォーム型ですね。一つのコンテンツで勝負ではなく、ファンコミュニティをつくっています。

伊藤 最近だとLDHもダンスグループとしての軸を持っているプラットフォーム型グループですよね。やはりHIROというプロデューサーがいて大成功しました。

 もちろんプラットフォーム型でなくても成功しているアーティストはいますが、ひと昔前の宇多田ヒカルのようなデビューから何百万枚もCDを売るようなアーティストが出てくるのは難しい時代になりました。それでなくても新人開発・育成、音源制作、プロモーションの予算も限られて、どんどんビジネスのスケールは小さくなっていますよね。

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2017.03.31(金)
文=山口哲一、伊藤涼