手が届きそうな大自然と
心温まる親密なおもてなし

◆ Rocky Mountaineer
(ロッキーマウンテニア号)

出発前日、ロッキーマウンテニア号は駅で最終点検を受けていた。

 午前8時前にバンクーバーを出発したロッキーマウンテニア号は、30分もすると美しい緑に囲まれた。列車のスピードはそれほど速くない。1日目の目的地であるカムループスの街まで約460キロを10時間以上かけて運行する、贅沢に時間を使う鉄道旅行なのだ。

 ロッキーマウンテニア号には4つの路線があり、カムループスで1泊してレイク・ルイーズとバンフに至るルートは、ファースト・パッセージ・トゥ・ザ・ウエストと呼ばれる。カナダ建国から20年後の1887年、大陸横断鉄道がロッキー山脈を越え、初めて公式にバンクーバーに到着した時とほぼ同じルートを走ることに由来する名称だ。

1階の食堂は、絶景を見ながら料理を楽しむ非日常空間。

 われわれが乗車したゴールドリーフクラスの車両は2階建てで、食事は1階の専用ダイニングに用意される。深い森、美しい渓谷、高い鉄橋、時折現れる熊や鹿。ゆっくり流れる車窓の景色を眺めながら、評判通りにうまいエッグベネディクトに舌鼓を打つ。手が届きそうなほど大自然を身近に感じられる鉄道には、船旅とは違う魅力がある。

 カムループスのホテルで1泊、2日目はレイク・ルイーズ、そしてバンフまで。この道程はさらに山が険しくなり、森も深くなる。130年も昔に、この山中に鉄道を通した先人を思う。贅沢でありつつ、歴史の重みも感じる旅だ。

レイク・ルイーズ駅に近い街、フィールドで見かけた野生のエルク。川の向こうを鉄道が走る。

 2階席は天井近くまでガラス窓になっているから、明るく開放的。抜群のタイミングでワインを勧めてくれる乗務員のサービスは親密で、くつろげる。ずっと乗っていたいのに、降車駅のレイク・ルイーズが近づいているというアナウンスが聞こえてきた。

撮影=志水 隆
取材・文=サトータケシ
地図=Cmap
コーディネイト=和田 健、長谷川和人
協力=カナダ観光局、ブリティッシュ・コロンビア州観光局