おしゃれに生まれ変わった
ベヤズット国立図書館

古のドームに描かれた文様と現代的なワークデスクが不思議にしっくりくる。(C)Tabanlıoğlu / Photo:Emre Dörter

 イスタンブールの旧市街にあるベヤズット地区といえば、グランドバザールやイスタンブール大学などがあることから外国人観光客や大学生でにぎわうエリア。

 同じイスタンブールでも新市街側にはオシャレなカフェ・レストランが並び、歴史的建造物でもゴージャスなアルメニア建築が目につくのに比べ、ここベヤズットはオスマン初期の香りが強く、質素ながらしっとりとした歴史の深さを感じさせる。東京でいうところの下町的な雰囲気が漂う古き良き地区だが、開発からはやや取り残され、手入れがきちんと行き届いていない感じもぬぐえない。

図書館隣にあるサハフラル書店街。神田古書店街のミニチュア版のような雰囲気で、イスタンブール大学の学生らの行きつけだ。ノーベル賞作家のオルハン・パムクも若い頃足しげく通ったという。

 そんななか、ベヤズット広場わきにぽつんと建つ「ベヤズット国立図書館」が、トルコを代表する建築事務所、タバンルオール・アーキテクツによるレストレーションを経て、新と旧が美しく交わるあでやかな図書館として再び生まれ変わった。

 ベヤズット国立図書館の建物は、元々ベヤズット広場に面して建つベヤズット・モスクの一部だった。モスクは1506年に完成したが、当時はモスク周辺に病院や学校、ハマムや厨房などが社会複合施設(=キュッリエ)として共に建設されるのが主流で、ベヤズット国立図書館は、この複合施設にあった「スープ厨房」と「隊商宿」だったという。

ひっそりとたたずむ質素な建物ながら、イスタンブールで最大・最古の国立図書館。

 その後1884年になって「欧州にあるような国立図書館をわが国にも」というスルタン・アブドゥルハミット2世の意向を受けて建物の修復が行われ、「オスマン国立図書館」としてオープンした。国が作った図書館としてはトルコ最古かつ最大規模で、とりわけ古書のコレクションは有名だ。

現代的なガラス張りの書庫に置かれた古書たち。このケース内は古書の保管に理想的な環境が整えられている。(C)Tabanlıoğlu / Photo:Emre Dörter
展示会室。古くから残る壁や天井、床の淡い白に反射する外部からの柔らかい光が、中央に置かれた現代的なガラスケースの存在をしっくり溶け込ませる。(C)Tabanlıoğlu / Photo:Emre Dörter

 ただし、こうした古文書の保管や建物の状態はあまりいいものではなく、とりわけ1999年のマルマラ大震災では大きなダメージを受けたという。これを受け2006年からレストレーションが行われることになり、これを手がけたのが、世界的にもその名が知られるタバンルオール・アーキテクツだ。

 昨今勢いのあるトルコ建築界のなかでも群を抜いて急成長中のトルコ企業だが、実は70年近い歴史を持つ老舗。これまでイスタンブール・アタトゥルク空港、タキシムのアタトゥルク文化センター、カニヨンショッピングセンターなど、トルコ人なら知らない人はいない有名作品を数多く手掛けてきた。

 こうしてタバンルオールによる9年に及ぶレストレーションの結果、歴史と現代性をクールに同居させた、新たなベヤズット国立図書館として再生したというわけだ。

文・撮影=安尾亜紀