ひろみさんの料理教室がおもしろい!

その日のメニューに関する、かなり詳しいレシピメモ。これに加えて授業中の話もおもしろい!

 実際、ひろみさんの教室は的確なアドバイスにあふれている。マッシュルームの処理法や香辛料の保存法といった料理の基本から、アシュレ(トルコの伝統スイーツ)についての文化的背景まで、ありとあらゆる情報が提供される。

 何を聞いてもきちんと論理的な答えがスパッと返ってくる背後には、底知れない努力が隠されているのだろう。トルコの調理師免許のほかにもパン、ハーブ、衛生管理などの資格を持ち、機会を見つけてはワークショップやイベント、短期コースなどに参加し、最新ガストロノミー情勢の勉強に励んでいるという。

伝統的なレシピもさることながら、新たな流れを取り入れた近代トルコ料理もメニューにちらほら入っている(左はファラフェル、右はカタクチイワシのピラフの準備)。

「あるシェフが講演会で、トルコのガージアンテップの町がユネスコ創造都市ネットワークの食文化リストに登録されたのには、近所の女性同士が互いに協力しあって料理を作る文化が背景にある、といっていました。あなたの家で困ったことはないか、と互いに気遣いあいながらみんなで一緒に料理して、それを分けあう。料理は一人で作るものではないんだよ、と。だからトルコ料理には手のかかるものが多いんです。私もそうやって学んできた。結局、そういうのも全部ひっくるめた総体が『トルコ料理』なんだと思うんです」

 トルコ料理を、トルコ家族にどっぷりつかって体験してきたひろみさんならではの愛情あふれる理論だ。

一番楽しい、盛り付け段階。キッチンも素敵。

「トルコでは最近、トルコ料理の伝統をきちんとデータベース化して残そうという動きもでてきています。オスマントルコ帝国時代から、料理人については師匠-弟子関係重視で、文書に残されていないレシピが多い。だからこれを整理して次世代に伝えるべきだ、と。例えば地元に残るワインの菌を研究する教授がシェフたちに講演するとか、そういう昔からの品種を調べるプロジェクトが盛んです。そんな風に、トルコの伝統手法を大切にしつつも、同時にモダンな部分もどんどん取り入れながら、どうやってトルコ料理を次世代につなげていけるか、そして世界に発信していけるか。これが今、若いトルコ人シェフたちのテーマになっています」

完成! 右写真手前からキヌアサラダ、カタクチイワシのピラフ、ファラフェル。

 これからの発展にさらに期待がかかるトルコのガストロノミー界。ひろみさんのように、トルコの料理のみならず文化や歴史など、全部をひっくるめて愛情深く語ってくれる研究家の活躍に期待がかかる。そして、私たちもそこから多くを学んでいきたい。

大濱裕美(おおはま・ひろみ)さん
『イスタンブルのキッチン』主宰。
http://ameblo.jp/hiromim40/

安尾 亜紀 (やすお あき)
イスタンブール在住。イスタンブール大学大学院女性学研究所卒。女性誌から料理誌、報道関係まで幅広い分野でライター・コーディネーターを担当。トルコの「おいしい・楽しい・新しい」を中心に、さまざまなメディアで情報発信中。

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文・撮影=安尾亜紀