イスタンブールに「トゥリレチェ(Trileçe)」旋風

 2014年は、イスタンブールに「トゥリレチェ(Trileçe)」旋風が吹いた年だった。このスイーツ、春ごろからトルコのグルメブロガーたちが取り上げ始めて話題になり、今では新聞コラムで特集が組まれたり、有名スイーツ店がこぞってメニューに導入したりするほどの人気だ。もはやトゥリレチェを知らないイスタンブールっ子はいない。

「バルテペ」のトゥリレチェは手作りの味わい。

「トゥリレチェってどんなお菓子?」とお店の人に聞いてみると、大抵「バルカン半島のお菓子で、水牛、ヤギ、牛の3種のミルクが使われています」という答えが返ってくる。確かに、一見すると牛乳漬けスポンジケーキという感じでかなり胃にもたれそうだが、一口食べてみるとその意外な軽さに驚く。ふわふわとした軽めのスポンジケーキがしっとり濃厚ミルクに包まれていて、口の中でじんわり溶けていく。このティラミス的な口当たりの軽さと冷たさが、夏のシーズンのヒットにつながったようだ。

バルテペのオーナー、ハリットさん(左)と店員のハリムさん。

 このお菓子、本当のオリジナルはラテンアメリカの伝統スイーツ「トレスレチェ(Tres Leche)」だと思われる。これがスペインに渡り、ヨーロッパに広がり、とりわけバルカン半島で人気を得て、このたびトルコでブレイクしたのだろう。特に古い歴史があるわけではないが、昔からアルバニアやマケドニアでは人気のお菓子なのだとか。トルコでの流行源も、バルカン半島からの移民が多く住むバイラムパシャやファーティヒ地区の小さなお店たちだ。

 ファーティヒ地区で1956年から続く老舗の菓子店「バルテペ(Baltepe)」は、トルコで初めてトゥリレチェを始めた店として知られる。オーナーのハリットさん曰く、5年前からトゥリレチェを作っているが、当初は発音が難しくてお客さんがうまく注文できないので「スペシャル」という名前だったのだという。マケドニアで菓子店を営む親せきに教えてもらったのがきっかけだったということで、他店よりスポンジがしっかりしていてホームメイドな感じがうれしい。

左:「ウスキュップ」のトゥリレチェは口当たりの軽さがウリ。
右:毎日約2000個のトゥリレチェが、おばちゃんたちによって手作りされている。

 一方、今やトゥリレチェの代名詞となったお店がバイラムパシャ地区にある「ウスキュップ(Üsküp)」という菓子パン店。3年前にトゥリレチェを始めてから人気を博し、今では多くのカフェにも卸している。店名のウスキュップとは、マケドニアの首都スコピエのこと。ミルクシロップが、軽めに仕立てられたスポンジにしっとり染み込んでいて、さらっと食べられてしまう美味しさだ。

ウスキュップで働くネルミンさんはマケドニア美人。

文・撮影=安尾亜紀