ときどき、どうしても食べたくなる!
カッパドキアの“おふくろ味”食堂

 仕事の関係で、トルコの地方を訪れることがたびたびある。

 そんな時の楽しみは、やはり地元料理をいただくこと。できれば地元のおばちゃんたちが、地元の食材で手作りしてくれるようなのがいい。

ムスタファパシャ村中央にある、コンスタンティヌス-ヘレナ教会内部(1729年建築)。
オールドグリークハウスレストランの伝統アナトリア料理。一番手前は「ヒュンキャルベーエンディ」といって、焼きナスのペーストの上にニンニク、ひき肉の炒め物をのせたもの。

 そんな野望を抱いている私が、カッパドキアに行った時には毎回といっていいほど訪れるレストランがある。ムスタファパシャ村の「オールドグリークハウスレストラン」だ。

 ムスタファパシャは、観光という面ではまだそれほどメジャーではない小さな村。カッパドキア観光の拠点となる町・ユルギュップから5キロほど離れているせいか、通常のツアーコースには含まれていないことも多い。かつてはキリスト教徒のルーム人(ギリシャ系)たちが集中して住んでいたところで、本当の村の名前は「シナソス」という。

 とても小さい村ながらも、道沿いに並ぶ建物にはギリシャ様式のものが多く、教会や礼拝所が点在する。村全体の雰囲気が、他のアナトリア地方の田舎とは一味違う。

グリークハウスの入り口。古いルーム建築の特徴として、入口の扉装飾に味わいがある。

 グリークハウスは、そんなギリシャ建築を村で代表しているような建物で、メイン通りの突当りに堂々と、厳かに建っている。ちょっと立派な門構えから中に入るとすぐそこは、光がさんさんと入る中庭だ。奥にあるブドウの葉がここちよい日陰を作ってくれていて、この葉を通した光の緑が、柱や天井のビビッドな配色とうまく交わって鮮やかな空間を作り出している。1887年の建築ということだが、柱や天井の色は当時から一度も塗りなおしていないのだという。

左:真夏でも、この中庭はちょうどいい涼しさなのがうれしい。
右:昔のギリシャ人たちの色彩感覚が、想像以上にあでやか。

 ここを営むのはオズトゥルクさん一家。経営は息子のニヤジさんが担当しているが、料理はお母さんが切り盛りしていて、地元の女性4~5人と一緒に準備を進める。以前訪ねた時は、中庭のブドウの葉を収穫してドルマ用に瓶詰にする作業をしていたけれど、今回はみんなでせっせとマントゥ(トルコ風ラビオリ)をこしらえていた。そう、こんなフツーなカッパドキアの料理が食べたかったのだ!

左:ブドウの葉を収穫して塩水に漬けるおばちゃんたち。頭上のブドウの葉が気持ちよい木陰を作り、作業もどこか楽しそう。
右:この日はキッチンでマントゥ作りが。薄く延ばした生地を小さく切って、具を包んでいくという細かな作業。

文・撮影=安尾亜紀