名匠が訪れるチーズ店から最旬地ビールまで
チレント・グルメが熱い!

 サン・ニコラ村にたたずむ、家族経営の小さなチーズ工房「チッコ・ディ・ブオノ」。代々、飼育からチーズ作りまでを一貫して行っています。

 「エサになる草は、彼女たちが選ぶんですよ。食べる草を変えることで、プロテインと脂肪のバランスが取れた良い乳を作るのです」と跡取り息子のアドルフォさん。

小さな工房で1人黙々と作業するアドルフォさん。「乳搾りは毎日2回。年間通して休みはありませんよ。牛も休みませんから」。

 大切に育てる牛やヤギから搾った乳からすべて手作業・伝統製法で作る“モッツァレッラ・ネッラ・モルテッラ”や“カッチョリコッタ・ディ・カプラ・チレンターナ”などのチーズは、南チロルのミシュラン星付きリストランテの元シェフで熟成士のハンシ・バウムガートナーさんがわざわざ試食に訪れるほど。ベネチア国際映画祭のイベントにも招待されるなど、じわじわとイタリア全土にその極上っぷりが広まっています。

生まれて数日の仔牛ジェルソミーナちゃん。飼っている牛にはみんな名前が!(笑)

 海岸線に降りれば、煌めく地中海。イタリアの美しい海岸に与えられる称号「バンディエラ・ブル」を取得し、青の洞窟も見られるパリヌーロには、地中海産マグロの伝統オイル漬けや白イチジクのジャム、ナスのオイル漬けなどの伝統保存食を製造する食工房「アウラ」があります。

 オーナーのルカさんは、「父は農家、母は漁師の出身。両方の血を受け継いだ自分の役目は、チレントの山と海の伝統の食文化を守り伝えていくこと」だと気づき、オランダから戻って故郷で起業したそうです。

2015年にオープンした食工房「アウラ」にて。オーナーのルカさんとお父さん。
ヤイトガツオのオイル漬けをチレント特産の穀物“マラクオッチョ”チップスに載せて。マラクオッチョは、2017年スローフードに認定予定。

 そのほか、この地方が原産のピッショッターナ種で造る珠玉のオリーブオイルやチレントの原産地呼称DOCワイン“エリカ”や“コルベッツォロ”など地中海灌木由来のハチミツ……。チレントで出会える伝統食材をあげれば枚挙にいとまがありません。熱い郷土愛と使命感を持って支える伝統。それはイタリアのお家芸でもあり、各地で見られるものではありますが、チレントでもここ数年、盛り上がりを見せているのです。

 そんななか、チレントに留まった若者たちが立ち上げた地ビール工場、過疎化の進む村ロッカグロリオーザの空家をツーリスト向けのアパルタメントに改装して村全体をホテルにするプロジェクト、生産者をつなぐコミュニティなども出現。地元グルメを柱に、復活&進化するチレントは、日本人旅行者にとっても注目株です!

ワイナリー「アルバマリーナ」のマリオさんは、ルクセンブルグでリストランテを経営しながら、故郷にブドウ畑を持つ夢もかなえた。仕込中のモストを試飲中。
イタリアでも人気のクラフトビール。チレント出身の若い姉弟が運営するビール工房「フィエイ」。
左:チレント原産種のオリーブ“ピショッタ―ナ”のオイル。
右:ロッカグロリオーザ村の伝統菓子“トロンチーノ・デッリ・スポージ”。癖になる美味しさ!

アグリツーリズモ「プリスコ」では、記事中の生産者や村を訪ねる宿泊プランを実施中。

【日本語お問い合わせ】
ローマナビ・ネット
http://rome-navi.net/

【取材協力】
Caseificio Chirico, Azienda Agrituristica“Cicco di Buono”, Aura, Albamarina, Marsicani, Apicoltura Cavalieri, Fiej, Toni Isabella

岩田デノーラ砂和子
2001年よりイタリア在住。約10年間のローマ生活を経て、現在は憧れだったシチリアの州都パレルモ在住。イタリア専門コーディネート・通訳チームBuonprogetto主宰。イタリア関連著書多数。近著『おしゃべりのイタリア語』が絶賛発売中。イケメン犬「ボン先輩」と、やらかし系イタリア人の夫「ピンキー」との日々を綴る人気ブログ:ローマの平日シチリア便りもほぼ毎日更新中。

Column

気になる世界の街角から

世界の12都市から、何が旬で何が起きているかをリポートするこのコーナー。
その街に今すぐ飛んで行きたくなる情報ばかりです!

文・撮影=岩田デノーラ砂和子