ポルトガルを代表する映画監督ペドロ・コスタ(1959-)による日本最大規模となる展覧会

公式ウェブサイト https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-5093.html


展覧会メインイメージ(映画『ホース・マネー』2014年より)

東京都写真美術館では、ポルトガルを代表する映画監督ペドロ・コスタ(1959-)による、日本最大規模で、東京では初めてとなる美術館での個展を開催します。コスタは、2018年にポルトのセラルヴェス美術館で開催された「Companhia(コンパニア)」(ポルトガル語で「寄り添う」および「仲間」の意)展や、2022年から2023年にかけてスペイン各地を巡回した「The Song of Pedro Costa」展など、映画だけでなく展覧会という形式においても国際的に高い評価を受けてきました。

本展は、コスタが10代の頃に出会い深い影響を受けた、スティーヴィー・ワンダーのアルバム『インナーヴィジョンズ(Innervisions)』(1973)と同名のタイトルを掲げています。音楽を通して社会と個人の関係に迫ろうとしたこのアルバムの精神は、彼の映像制作の方法論とも深く響き合っています。

旧ポルトガル領アフリカのカーボ・ヴェルデ*1から移住し、リスボンのスラム街フォンタイーニャス地区*2で暮らす女性の過酷な日常を映し出した『ヴァンダの部屋』(2000)は、日本では2004年に劇場公開され、新たなドキュメンタリー表現として、大きな反響を呼びました。このようにコスタの映画は、暗闇と光の強いコントラストと、静謐かつ緻密な画面構成のなかに、現実の断片をすくい上げ、社会構造に鋭く切り込み、新たな視座を提示してきました。

今回の展示では、ポルトガルで暮らすアフリカ系移民の歴史を照らし出した『ホース・マネー』(2014)など、コスタ作品において重要な役割を担う、ヴェントゥーラをはじめとする登場人物たちや、彼らが生きる場所に関わる映像作品に加え、東京都写真美術館のコレクションも紹介します。

コスタの映像表現とその背景にある歴史的・社会的文脈に触れることで、「インナーヴィジョンズ」という主題を考察していきます。

1 カーボ・ヴェルデ共和国は西アフリカ沖にある火山群等からなる島国で、15世紀にポルトガルによって入植され、奴隷貿易の中継地として栄えたという歴史がある。1975年に独立。2 ポルトガル、リスボンにあったスラム街。多くのアフリカ系の住民が集まる移民街だった。コスタは、『骨』(1997)以降、『ヴァンダの部屋』(2000)、『コロッサル・ユース』(2006)でこの地区を舞台に映画制作を行っている。

ペドロ・コスタ

1959年、ポルトガル・リスボン生まれ。リスボン大学で歴史と文学を学び、映画学校では詩人・映画監督アントニオ・レイスに師事。1989年の長編デビュー作『血』がヴェネチア国際映画祭で注目を集め、その後『骨』(1997)や『ヴァンダの部屋』(2000)で国際的評価を確立。カンヌ国際映画祭や山形国際ドキュメンタリー映画祭など受賞歴多数。『ホース・マネー』(2014)でロカルノ国際映画祭最優秀監督賞を受賞し、『ヴィタリナ』(2019)で同映画祭金豹賞を受賞。アントン・チェーホフの戯曲『三人姉妹』に着想を得て制作した短編ミュージカル映画『火の娘たち』(2023)は第76回カンヌ国際映画祭で特別招待作品として上映され、各国で高い評価を得ている。


Photo by João Pina

展覧会の見どころ

日本最大規模となる個展

ドキュメンタリーとフィクションの境界を揺るがす独自の映像表現で、現代映画の最前線を切り開いてきたペドロ・コスタ。これまでに発表された数々の作品は、カンヌをはじめとする国際映画祭で高く評価され、日本でもコスタの映画は多くの支持を集めています。近年は、映画だけでなく世界各地で展覧会も開催し、表現の領域を広げており、本展はコスタのこれまでの活動の集大成ともいえる展覧会です。

展覧会で見るペドロ・コスタ

映画制作を主軸に、美術とは距離をおきながらも、自らの映像作品を展覧会の形で発表してきたペドロ・コスタ。コスタは、「映像そのものは同じでも、映画と美術館の展示ではそのつながり方が違う」と語ります。展覧会のために、映像作品を制作するのではなく、映画を美術館の空間に持ち込むことで、映画のなかで実現した問題意識を広げ、新たな体験を生み出す試みをおこなってきました。映画においてはひとつの流れとして編集される映像が、本展では断片として空間に分散され、来場者は映像・写真・音が交錯する展示空間を歩きながら、その断片を自身の手で編み直すように体験します。映画とは異なる鑑賞体験をお楽しみいただけます。

インナーヴィジョンズ

1974年、ポルトガルの独裁政権崩壊と植民地解放へとつながるカーネーション革命*3のさなか、当時15歳のコスタは、スティーヴィー・ワンダーのアルバム『インナーヴィジョンズ』(1973)に出会い、深い影響を受けました。階級や人種にまつわる喪失と希望を描いたこのアルバムに、激動の時代と自身の内面の変化が重なり、共鳴したといいます。「内面のヴィジョンであり、内面から現れるヴィジョンでもある」というタイトルの持つ二重の意味は、コスタの映像表現にも通底し、本展の核にもなっています。

*3 1974年4月25日に、ポルトガルで起こった無血の軍事クーデター革命。独裁政権が崩壊し、民主化が進んだ。市民が兵士の銃口にカーネーションを挿したことからこの名がついた。

写真美術館コレクションのジェイコブ・リース

映画『ホース・マネー』の冒頭の場面では、アメリカのフォトジャーナリズムの先駆者、ジェイコブ・リース(1849-1914)が19世紀末から20世紀初頭にかけてニューヨークの貧困街を撮影した写真群が映し出されます。本展では、コスタの映画世界と連動し、東京都写真美術館が所蔵するジェイコブ・リースの作品を紹介し、コスタの作品世界への理解を深めます。

映画館から展覧会へ──ふたつの上映とトークプログラム

会期中、当館1階ホールではふたつの関連上映プログラムを実施します。会期前半には、本展に合わせペドロ・コスタが自らの視点で選び構成した11本(予定)の映画を上映する「ペドロ・コスタのカルト・ブランシュ*4」を開催。コスタが「ポルトガルの『東京物語』」と評する『ポルトガルの別れ』(ジョアン・ボテリョ監督)を上映します。会期後半には、コスタの代表作を特別上映する「ペドロ・コスタ特集上映」を開催します。さらにアーティスト・トークやゲストとの対談も開催予定。映画の持つ力とペドロ・コスタの映像世界の奥行きを、新たな角度から体験する貴重な機会となることでしょう。

出品予定作品

1.《少年という男、少女という女》2005年 2チャンネル・ヴィデオ・プロジェクション 東京都写真美術館蔵

『ヴァンダの部屋』と『コロッサル・ユース』撮影時の素材を使ったヴィデオ・インスタレーション。

2.ジェイコブ・リース〈向こう半分の人々の暮らし〉ほか 1880-1889年 ゼラチン・シルバー・プリント 東京都写真美術館蔵

映画『ホース・マネー』の冒頭場面では、19世紀末から20世紀初期にかけてニューヨークの貧困地域を撮影したリースによる12枚の写真が映し出される。本展では東京都写真美術館所蔵のコレクションから、コスタが選んだリースの写真作品を展示する。

3. 新作映像作品 2025年 シングルチャンネル・ヴィデオ

映画『ホース・マネー』の音楽シーンから構成されたポートレイトのシリーズ。ジェイコブ・リースの作品群への応答となっている。

4.〈溶岩の人々〉2015年 和紙にインクジェット・プリント

映画に登場する5人の肖像を和紙にプリントした写真作品のシリーズ。

5.《火の娘たち》2019年 5チャンネル・ヴィデオ・プロジェクション

カーボ・ヴェルデに暮らす女性たちの顔をモチーフにしたインスタレーション。その映像は映画『溶岩の家』の引用から構成されている。

6.《火の娘たち(2022)》2022年 3チャンネル・ヴィデオ・プロジェクション

カーボ・ヴェルデ諸島のフォゴ島で1951年に火山が噴火した出来事を発想源にして、短編映画『火の娘たち』(2023)を制作したコスタが、その映画作品の公開と同時期にスペインで発表したインスタレーション。3つに分割された画面にひとりずつ異なる女性が映し出されるミュージカル映画。火山のマグマが迫る中、彼女たちは孤独や苦難、仕事の苦労、不屈の精神について歌う。

7.《ジ・エンド・オブ・ア・ラヴ・アフェア》2003年 シングルチャンネル・ヴィデオ・プロジェクション

寝室の窓際に立つ男性が、窓の外を眺めながら風に揺れるカーテンを眺めるというワンカットで構成されている。ビリー・ホリデイによる同タイトル曲に触発されて完成した作品であり、そこでは恋の終わりが示唆されている。フランスとポルトガルで開催される芸術祭「Festival Temps d‘Images」のために制作された。

8.《アルト・クテロ》2012年 2チャンネル・ヴィデオ・プロジェクション

アルト・クテロは、カーポ・ヴェルデのフォゴ島にある土地の名前であり、またリスボンにおけるカーポ・ヴェルデ移民の悲惨な生活を歌った労働歌のタイトルでもある。『ホース・マネー』の後半では、この音楽が挿入されている。本インスタレーションは、病院のような場所でたたずむヴェントゥーラと火山の映像から構成されている。

9.《溶岩の家 スクラップブック》2010年 スライドショー

カーボ・ヴェルデ諸島を舞台にして撮影された長編第二作『溶岩の家』(1994)のために、コスタは制作の準備段階で得たアイディアやイメージをスクラップブックにまとめている。絵画、写真、手紙、新聞記事、落書き、文学作品の引用、ポートレイトなどによって構成されたイメージのシナリオが、映画の実現に重要な役割を担った。


ペドロ・コスタ《少年という男、少女という女》2005年 東京都写真美術館蔵

ジェイコブ・リース〈向こう半分の人々の暮らし〉1880-1889年 東京都写真美術館蔵

ペドロ・コスタ〈溶岩の人々〉2015年 作家蔵

ペドロ・コスタ《火の娘たち(2022)》2022年 作家蔵

ペドロ・コスタ《火の娘たち》2019年 作家蔵

ペドロ・コスタ《ジ・エンド・オブ・ア・ラヴ・アフェア》2003年 作家蔵

ペドロ・コスタ《溶岩の家 スクラップブック》2010年 作家蔵

ペドロ・コスタ《アルト・クテロ》2012年 作家蔵

関連イベント

□関連上映プログラム「ペドロ・コスタのカルト・ブランシュ」

8月28日(木)- 9月7日(日)

本展に合わせ、ペドロ・コスタが自らの視点で自由に選び構成した11本(予定)の映画を上映。

上映予定作品|

1『トラス・オス・モンテス』監督:アントニオ・レイス、マルガリーダ・コルデイロ [1976年|ポルトガル|ポルトガル語|111分]

2『ポルトガルの別れ』監督:ジョアン・ボテリョ [1986年|ポルトガル|ポルトガル語|85分]

3『田舎司祭の日記』監督:ロベール・ブレッソン [1950年|フランス|フランス語|102 分]

4『星を持つ男』監督:ジャック・ターナー [1950年|アメリカ|英語|89分]

5『太陽』監督:アレクサンドル・ソクーロフ [2005年|ロシア・イタリア・フランス・スイス|日本語、英語|110 分]

6『H story』監督:諏訪敦彦 [2001年|日本|日本語|111 分]

7『真人間』監督:フリッツ・ラング [1938年|アメリカ|英語|94 分]

8『山羊座のもとに』監督:アルフレッド・ヒッチコック [1949年|イギリス・アメリカ|英語|117分]

ほか

※以下の日程で、出品作家による上映アフタートークを開催します。

8月31日(日) 13:00からの上映終了後 登壇者:ペドロ・コスタ

会場|東京都写真美術館1階ホール 定員|190名

料金|一般1800円、学生および高校生以下 1,000円

※本展チケットのご提示で1,000円(本展チケット1枚につき1回の割引)

※『H story』を除き、日本語字幕付き

□関連上映プログラム「ペドロ・コスタ特集上映」

ペドロ・コスタの代表作を特別上映します。

上映予定作品|

『血』『溶岩の家』『骨』『ヴァンダの部屋』『コロッサル・ユース』『映画作家ストローブ=ユイレ あなたの微笑みはどこに隠れたの?』『何も変えてはならない』『ホース・マネー』『ヴィタリナ』『火の娘たち』ほか、全11プログラム

※以下の日程で、出品作家およびゲストによる上映アフタートークを開催します。

 12月6日(土) 登壇者:北小路隆志(映画評論家、京都芸術大学教授)*

 12月7日(日) 登壇者:ペドロ・コスタ ※オンライン

会場|東京都写真美術館1階ホール 定員|190名

料金|一般1800円、学生および高校生以下 1,000円

※本展チケットのご提示で1,000円(本展チケット1枚につき1回の割引)

※日本語字幕付き

□出品作家およびゲストによるアーティスト・トーク

8月28日(木) 18:30-20:30 登壇者:ペドロ・コスタ

8月29日(金) 18:30-20:30 登壇者:ペドロ・コスタ、長島有里枝(写真家)

8月30日(土) 15:30-17:30 登壇者:ペドロ・コスタ、諏訪敦彦(映画監督、東京藝術大学教授)

会場|東京都写真美術館 1階ホール 定員|190名 参加費|無料

当日10:00より1階総合受付にて整理券を配布します。

□担当学芸員によるギャラリートーク

8月29日(金)、9月26日(金)、10月17日(金)[手話通訳付]、11月28日(金)[手話通訳付]

各回とも14:00-

参加費|無料、ただし当日有効の本展チケット、展覧会無料対象者の方は各種証明書等の提示が必要

開催概要

展覧会名[和] 総合開館30周年記念 ペドロ・コスタ インナーヴィジョンズ

展覧会名[英] TOP 30th Anniversary Pedro Costa Innervisions

会 期  2025年8月28日(木) - 12月7日(日)

主 催  東京都、東京都写真美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)

後 援  ポルトガル大使館、J-WAVE81.3FM

企 画 田坂博子(東京都写真美術館 学芸員)

企画協力 濱治佳(シネマトリックス)

会 場  東京都写真美術館 地下1階展示室

     東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内

     Tel 03-3280-0099 URL http://topmuseum.jp

開館時間 10:00 - 18:00(木・金は20:00まで)

     ※8月28日- 9月26日の木・金曜日は21:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで

休館日  毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)

観覧料  一般 800(640)円/学生 640(510)円/高校生・65歳以上 400(320)円

     ※( )は有料入場者20名以上の団体、当館映画鑑賞券提示者、各種カード会員割引料金

     ※中学生以下及び障害者手帳をお持ちの方とその介護者(2名まで)は無料

     ※第3水曜日は65歳以上無料

     ※8月28日-9月26日の木・金曜日17:00-21:00はサマーナイトミュージアム割引(学生・高校生無料、一般・65歳以上は団体料金。学生証・年齢が確認できるものをご提示ください。)

     ※オンラインで日時指定チケットを購入いただけます。

本展はやむを得ない事情により内容を変更する場合があります。

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