受容するファンの側の成熟さえも感じられる

山口 モーニング娘。は、1997年から活動しているからもうすぐ20年。新しいアイドルがたくさん出てきて、押されている印象になってきて、いつやめるのかなと思っていたら、アイドルブームの中で、復権してきていますね。むしろ、「ハロプロっぽさ」ということが言われるくらい、一つの音楽のジャンルというかカテゴリーになっているような気がします。僕らの「山口ゼミ」のデモテープの公開添削でも「このハロプロっぽさは云々」みたいに普通の形容詞のように使われていますよね?

伊藤 そうですね(笑)。言い方が悪いですけど、ちょっと古いっていう形容詞のように使っていましたが、このグループの出現でその形容詞の意味も変わるかもしれない。Youtubeで彼女たちのMVをみたんだけど、いままでのハロプロとは何かが違う。ビジュアルもダンスもハロプロの伝統を受け継いでいることは間違いないんだけど、なにか引っ掛かる。ただのハロプロの新ユニットというだけだったら、これだけアイドルが曲をリリースする時代にわざわざここで取り上げないんだけど……なんというか進化したハロプロを感じるんですよ。

山口 なるほど、高い評価ですね。

伊藤 はっきり言えるのはこのシングルの1曲目「ドスコイ!ケンキョにダイタン」と3曲目の「念には念(念入りVer.)」はつんくの作詞作曲ではない。いままでのハロプロの楽曲のほとんどは彼が作詞作曲をしてきたのに、これは大きな変化。それに伴ってか、サウンド的にもかなり今までの路線とは違い、ただロックっぽいとかではなく時代に合わせたアップデイトがされた感じ。

山口 確かに、音楽的には進化していますね。

伊藤 そして今回とりあげる曲「ラーメン大好き小泉さんの唄」はフジテレビ系ドラマ「ラーメン大好き小泉さん」の主題歌で、シャ乱Qの「ラーメン大好き小池さんの唄」のカバー。ドラマ自体はもう7月に終わっているんだけど、主演が元ももクロの早見あかりと、女性アイドルに明るくない自分には複雑すぎる(笑)。

山口 そうですね。「複雑すぎる」という感想は正しいと思います。日本のアイドル文化は、成熟した進化をしています。外国人にJポップ、特にアイドルを説明するときには、僕の乏しい英語の語彙だと、complicated(複雑な)、unique(独自の)、a kind of sophistication(ある種の洗練)を連発することになります(笑)。でも、この曲、フードミュージックプロデューサー的にも見逃せないですよね!

伊藤 そうなんですよ。たまたまなんですけど、ちょっと前にシャ乱Qのほうの「ラーメン大好き小池さんの唄」をツイッターで話題にしてフォロワーと意見交換をしたばかりだったんですよ。この曲はマンガ『オバケのQ太郎』や『ドラえもん』といった藤子作品に登場するラーメンが大好物な小池さんにまつわる歌で、ひみつのアッコちゃんの「すきすきソング」のパロディソングなんですね。そしてこぶしファクトリーの「ラーメン大好き小泉さんの唄」のほうはアレンジが変わったほか、小池さんから小泉さんなど歌詞も少し変わってはいるけど、基本的な内容は変わらない。とにかくこれを聴いたらラーメンが食べたくなる曲です。

山口 そもそも、藤子不二雄の小池さんって、若い子は知らないよね? タイトルを見た時にまさかと思ったけど、そのまさかだった(笑)。このプロデュース側が遊んでいる感じは、ももクロもそうですが、それを受容するファンの成熟を感じますね。

2015.08.30(日)
文=山口哲一、伊藤涼