「イタリアにはスタバやドトールは存在しないのですか?」
そんな質問を日本から来る人によくされる。
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バール文化が発達しているイタリアでは、そういったチェーン店が参入する余地は今のところない。「今のところ」とあえて付け加えたのは、個人商店の多かったイタリアが、残念ながらここ数年、世界規模で展開しているファストファッションやファストフードの店に押され気味だからだ。そんななか、今もなおイタリア独自の文化を守り続けているのがバールだろう。
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しかし、たかがエスプレッソとは言っても客の要望は様々だ。カップで飲む人、グラスで頼む人、朝はミルクを垂らしたマキアートを好むが、午後はスタンダードなエスプレッソへ戻る人、などなど。さらに、同じマキアートでも常温のミルクを好む人、暖めたミルクを注文する人と、これまた細分化されていく。
ちなみに余談だが「ミルクは朝のみ」というのがイタリア人の鉄則だ。だから、夕食後にレストランでカップッチーノを頼むのはアメリカ人か日本人、またはドイツ人と決まっている。旅行客のそんな要望に応えるべく、最近はレストランでもカップッチーノを出してくれるようになったが、以前はそんな店はごく稀だった。
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通常のエスプレッソよりも濃度が凝縮されたカフェ・コルト。その反対のカフェ・ルンゴ。ダブルの量の豆を利用したカフェ・ドッピオ。サンブーカやグラッパなどの蒸留酒を加えたカフェ・コレット。一杯、1ユーロにも満たないエスプレッソにそれだけ幅広く対応してくれるのは、その背景に長年のバール文化が存在するからこそなのだ。馴染みの客の好みを把握しているのもバリスタの技量のひとつであり、カウンター越しに客と言葉を交わすことも彼等の仕事のひとつ。スタバやドトールではなかなかそうはいかない。だからこそ、イタリアのバール文化は今もなお健在なのだ。
村本幸枝(むらもとゆきえ)
イタリアでは撮影コーディネートを、日本では東京・中央区で「日伊文化交流サロン アッティコ」を主宰。在伊歴20年ちょっと。現在、年の半分ずつをイタリアと日本で過ごしている
日伊文化交流サロン「アッティコ」:http://www.attico.net
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text&photographs:Yukie Muramoto