かつてのシチリア農民の暮らしを伝える「バリオ」に滞在

 シチリアの内陸部に点在するバリオ。バリオとは、16~19世紀にシチリアがスペイン王国の支配下にあった時代に建てられたシチリア独特の荘園のことで、外敵から守るために壁に見立てた強固な石造りの建物で囲んだ中央に、広い中庭があるのが特徴です。

オリーブ畑に囲まれた伝統的なバリオを改築した「イル・クオーレ・ディ・ディオニーゾ」。

 中庭を囲む建物は、領主の母屋、農作物の倉庫や馬・牛小屋、小作人の家々で、中庭には水飲み場があり、農作業や農民の生活ができるようになっていました。いわば「極小の村」のイメージでしょうか。

「イル・クオーレ・ディ・デオニーゾ」の母屋のキッチンを改装した朝食ルーム。1800年代の内装・家具が残っています。

 外観をそのままに、内装も当時の暮らしの面影を残したバリオでは、いつか映画やドキュメンタリー映像で見たような、シチリアの田舎を体感することができます。

 映画と言えば、例えばシチリア出身のノーベル賞作家ルイジ・ピランデッロ原作の『カオス・シチリア物語』。シチリア農民の哀しさとたくましさを描いた、タヴィアーニ兄弟監督のオムニバス映画で、これにもバリオが登場します。オリーブオイルを貯蔵する巨大な甕を割ってしまった農民たちと地主、修理職人の知恵比べ……が面白切なく展開される寓話ですが、その舞台となるのが、バリオの中庭。

左:農民たちがワインづくりやオリーブに仕分け作業をしたバリオの中庭。
右:田舎家の素朴さを残したミニマムなインテリアに癒やされる。

 かつての農民の暮らしの場であったバリオは、現在、アグリツーリズモやワイナリー併設のエノツーリズモ、シンプルなホテルなどに改装されており、旅行者も気軽に宿泊することができます。

 輝く太陽とは裏腹に、どこか哀しさが宿るシチリアの独特のムードが漂うバリオ。この島の歴史や文化に興味のある人には特に、「シチリア」をより身近に体感できるおススメの滞在スタイルのひとつです。

Il Cuore di Dioniso
所在地 S.S.115/Dir Km.5+552.80, Marinella di Selinunte- Castelvetrano
電話番号 +39-0924-941046、+39-328-0525701

岩田デノーラ砂和子
2001年よりイタリア在住。約10年間のローマ生活を経て、現在は憧れだったシチリアの州都パレルモ在住。イタリア専門コーディネート・通訳チームBuonprogetto主宰。イタリア関連著書多数。近著『おしゃべりのイタリア語』が絶賛発売中。イケメン犬「ボン先輩」と、やらかし系イタリア人の夫「ピンキー」との日々を綴る人気ブログ:ローマの平日シチリア便りもほぼ毎日更新中。

Column

気になる世界の街角から

世界の12都市から、何が旬で何が起きているかをリポートするこのコーナー。
その街に今すぐ飛んで行きたくなる情報ばかりです!

文・撮影=岩田デノーラ砂和子