マーケットが続けられないほどの人気ぶり「オルゾ・コーヒー」

ジェレミーさんのブランド「INNOCENTE」のオルゾ・コーヒー(500g入り7.50ポンド、250g入り5.00ポンド)。すでに挽いてあるので、普通のコーヒーと同じようにフィルターで淹れられる。

 ロンドン中心部に新しくオープンしたフード・マーケットに、カフェインフリーの麦のコーヒーを出すストール(屋台)があるらしい、という新聞で見つけた情報に興味を引かれ、さっそくストールの主に取材のお願いのために連絡をしました。すると、「あまりの人気で、マーケットは続けられなくなりました」と、ますます興味を引くお返事。そこで、この謎のコーヒーの正体を解明すべく、ストールの主であるジェレミー・レヴィスさんにお話を伺いました。

 インタビューの場所に指定されたのは、東ロンドン、ダルストン地区にあるポルトガル・デリ。ここではジェレミーさんの「INNOCENTE」の麦のコーヒーを購入できると同時に、店主のリタさんが丁寧に淹れた麦のコーヒーをテーブルで味わうこともできるのです。

左:オルゾ・コーヒーのクオリティは、焙煎する職人の腕ひとつで決まります。(Photo courtesy of INNOCENTE)
右:オルゾ・コーヒーのカフェ・オレ。普通のコーヒーよりも黒いです。

 香りは、確かにコーヒーに似ているのですが、昔からよく知っている「なにか」のようにも感じます。生まれて初めての麦のカフェ・オレを口に運ぶと、テーブルの向こう側から「どうですか? 日本人のお客さんは決まって、日本のなんとかっていう飲み物に似ている、って言うんだけど?」とジェレミーさん。むむむ、確かに! コーヒーと言われればコーヒーに似ているのですが、まるで強烈にローストした麦茶のような味でもあるのです。

「そもそも、オルゾ(イタリア語で「麦」のこと)・コーヒーは、イタリアでは何百年にもわたって飲まれてきた、家庭の飲み物なんです」とジェレミーさん。その昔、コーヒーが高級品だった時代、農家を営む人々は麦をローストして、コーヒーの代わりにしていたのだとか。それが、次第にコーヒーが日常品となり、それと同時に麦のコーヒーは身体にやさしい子どもと老人のための家庭の飲み物として、すっかり定着してしまったのだそうです。

文・撮影=安田和代(KRess Europe)