パンケーキ・レースで盛り上がる懺悔の火曜日

スタート地点に立つ参加者の皆さん。開会の挨拶をしているのは、英国ではお茶の間の顔ともいえる、女性ニュースキャスター、ニナ・ホサインさん。

 英国では、キリスト教の四旬節が始まる前日の「懺悔の火曜日(Shrove Tuesday)」に、パンケーキを食べるという伝統があります。イースター前の40日間(日曜日を除く)の四旬節は、バターや卵など、かつては贅沢品とされた食品を控えるキリスト教の絶食期間。そのため、前日にあたる懺悔の火曜日に、家のなかにある贅沢品は使い切ってしまいましょう、という行事なのです。

左:パンケーキといっても、ぺらぺらのクレープに近い形状です。
右:第1走者がパンケーキを翻しながら走る! トップを走っているのは、庶民院のジュリアン・ハパート議員、それを追う青エプロンはセント・ジョン男爵。

 さて、パンケーキ・デーとも呼ばれる懺悔の火曜日には、フライパンをバトン代わりに使うパンケーキ・レースが、英国のいたるところで開催されます。その起源は、15世紀、バッキンガムシャーのオルニーという村。とある主婦がパンケーキ作りに夢中になって時も忘れてしまい、懺悔の火曜日の礼拝が始まる鐘の音を聞いて、焦ってフライパンを握ったまま、いちもくさんに教会まで走っていったというところから始まったそうです。

 今年も、懺悔の火曜日にあたる3月4日には、さまざまなパンケーキ・レースが開催されましたが、ここではロンドンで行われたふたつのレースをご紹介します。

 まず、ひとつめは、国会パンケーキ・レース。身体や脳に障害のある人々へのリハビリテーションを提供するチャリティ団体「Rehab」が、1998年から毎年開催、英国議会の貴族院(上院)、庶民院(下院)、そしてメディア・チームの3チーム対抗の、このパンケーキ・レースは、国会議事堂のまさにお膝元、ビクトリア・タワー・ガーデンズで行われます。

かなり本気で走る参加者たち。白エプロンが庶民院チーム、青エプロンが貴族院チーム、赤エプロンはメディア・チーム。

 国会議員の先生方と貴族のジェントルマンたち、そしていつもはニュース番組で難しい顔をしている政治記者たちが、エプロンとシェフハットを身につけ、パンケーキを入れたフライパンを手にスタート地点に集合。スタート前から、かなりユニークな様相です。英国の民放、ITVの女性ニュースキャスター、ニナ・ホサインさんの開会の挨拶があり、いよいよレースがスタート。

 広場の一部にコーンを立ててつくられたコースを走る間、各ランナーはコンスタントにフライパンのなかのパンケーキを返す、というのがこのレースのルール。しかも返す際には、「最低でも」3フィート(約90センチ)はトスしなければいけないとのこと。そしてこのフライパンを次のランナーに渡すリレースタイルで、レースが展開されていきます。各チーム7~8人のランナーが合計8周走り、最後は3分56秒のタイムで、みごと貴族院の紳士たちが勝利を収めました。

左:貴族院チームによる、勝利のパンケーキ返し。
右:惜しくも敗れたメディア・チームは、BBCの政治記者をはじめ、テレビでお馴染みの面々。

 朝10時に始まったこのレース、開会の挨拶、レース、授賞式とわずか1時間ほどで終了し、参加者はそそくさとエプロンとシェフハットを脱いで、参加賞のパンケーキをもらって、いつものスーツ姿で、それぞれの持ち場に帰っていきました。

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文・撮影=安田和代(KRess Europe)