世界最古の共和国と3つの塔
右:第1の塔から見下ろす町並み。
実は、サンマリノは現存する共和国のなかで世界最古。そのはじまりは、ローマ帝国時代、キリスト教迫害から逃れるために石工・マリヌス(聖マリーノ)が仲間とともに山に立てこもり建国したとされています。
日本の戦国時代がそうであったように、イタリアも統一前はそれぞれの国家に別れていて、その歴史には常に戦いがありました。そんななかにありながら、ずっと共和国として独立を守り続けられた理由、それが絶壁の山の上という地の利と、国を絶えず見張る3つの塔でした。
右:尾根沿いの城壁と第2の塔。
断崖の尾根にはりめぐらされた城壁、そこから四方を見渡すように3つの塔はあります。塔は公開されており、それぞれ中を見ることができます。実際に塔に上ったときの眺めは、自分が空の中にいる、そんな目線。果てしなく続く平野の先には青いアドリア海。その青は、やがて空の青と混じりつながって、大きくすべてを包んでいる。畏怖の念すら感じる大きさ。
その塔からさらに崖に突き出るようにある見張り台に、恐る恐る立ってみました。見下ろす緑の大地はどこまでものどかで平穏。何か起こるなんてなさそうな静かな景色、たとえ何か起こったって点にしか見えないだろう遠い景色を、当時の兵士たちは、こんな恐ろしい見張り台で孤独に耐え、ひたすらに目を凝らし続けたんだろうな。それはきっと家族のため、愛する人のために。そして自分たちの「自由」のために。
長い戦いの歴史の中でも毅然と「自由」を誇り、共和国として独立し続けてきた小さな国は、晴れ渡る空に今も凛と建ち続けていました。ふと、私もこんな風に凛と立っているだろうかと思った旅の空。やわらかな春の光に満ちた青空はどこまでも遠く広く続いているのでした。
藤原亮子 (ふじはら りょうこ)
イタリア・フィレンツェ在住フォトグラファー&ライター。東京でカメラマンとして活動後、'09年、イタリアの明るい太陽(と、おいしい食べ物)に魅せられて渡伊。現在、取材・撮影・執筆活動をしつつ、イタリアの伸びやかな景色をテーマに写真作品も制作中。イタリアでの日々をつづったフェイスブック https://www.facebook.com/chococogogo
文・撮影=藤原亮子