そして、みゅう君に出会った

 そして僕も今、愛猫みゅう君と一緒に暮らしている。

 みゅう君は、マンチカンとペルシャのミックスのミヌエットという猫種で、手足が短く、毛が長くフサフサな猫だ。

 上京したときから、いつか猫と共に暮らしたいという願望があった。いつでも猫を家に迎え入れられるようにペット可の物件を探していたが、そういった物件は家賃が高くて住むことができず、猫と暮らせない日々が続いた。

 猫がいない寂しさをぬいぐるみのフシギダネで埋めた。

 2021年1月。ついにペット可の物件に引っ越すことができた。歌の練習のためでもあるが、半防音のような壁の厚い物件にしたので、物音や鳴き声、猫を愛でるときの甘ったるいキショい声などを気にせずに出せる。

 存分に猫と楽しく暮らせる条件が揃った。

 どんな猫を迎え入れるか早速調べた。もうこの時間だけでもとても楽しい。猫は車や物件選びとは訳が違ってノリや思い切りでは決められない。猫はペットではなく家族なのだから。どんな猫がいいか、保護猫なども含めいろんな猫を調べた。これからずっと東京で一緒に暮らしていくのでフラットに自分が一緒にいたいと思う猫にしようと思った。

 そして、みゅう君に出会った。

 出会ったときは、まだ生まれて2カ月くらいの状態でものすごく小さかった。色は雪のようにまっ白で、体のところどころに薄い茶色が入っている。みゅう君の写真を見たとき、初めて山で出会ったときのピーちゃんと、どこか似た雰囲気があると思った。運命を感じたような気がして、その後すぐに約束をして、みゅう君に会いに行った。

 実物は写真よりもさらにかわいかった。全てかわいかった。声も顔も不器用なとこも全部大好きだった。みゅう君は僕に抱えられている間、人見知りなのか、僕が怖かったのか、ずっと震えていた。それもかわいかった。

みゅう君がいればそれでいい

 そんな出会いからもう二年が経っている。あんなに小さかった子猫は、みるみるうちに大きくなり、長毛種ということもあって実家にいる猫の倍くらい大きく見える。

 僕とずっと一緒にいて似てきたのか人見知りがさらに増して、僕以外の人には全く懐なつかない。すぐシャーッと威嚇して、逃げ回ってしまう。

 買ったときは青一色だったソファが、みゅう君の毛で、お金持ちが住む家の玄関の床に敷かれた大理石のような模様になってしまったので、ソファを買い替えた。

 そのソファを業者の人が取り替えに来てくれたときに、その業者の人が屈強な男ボディで、声もダンディボイスだったために、みゅう君はヤンキーに遭遇した陰キャのように物陰に隠れようと必死に自分の体より低いトイレで壁を作って体を隠そうとしていた。業者の人が帰ったあとも一時間くらいずっとその場にいた。体の半分以上が隠れていないその姿がとても愛くるしかった。

 僕が部屋を移動すると必ずついてくる。僕がお風呂に入っているときは早く出てきてほしいのかドアの前でずっと鳴いている。可哀想になってドアを開けると、大嫌いなお風呂に入れられると思って勢いよく逃げていく。どうすれば満足ですか?

 寝るときは、ベッドに乗ってきて僕の足元で丸くなって一緒に眠る。みゅう君を潰さないように寝返りがあまり打てず、みゅう君が来てからずっと眠りが浅い気がする。

 さらに、朝方五時くらいにお腹が空いて、無防備な僕のお腹に約六キロの体重で急にのしかかってきたり、顔を舐めまわしてきたりして、叩き起こされる毎日。

 充電コードやイヤホンコードなど細長いものはなんでも嚙みちぎってしまう。もう二十本以上いかれた。七万円もした自動で汚れた砂を回収してくれる巨大なトイレを一度も使うことなく、部屋をただ狭くするだけの物体にした。家で作業をしていると、お気に入りのねこじゃらしを咥くわえて持ってきて遊んでほしいアピールをしてくる。遊ばないと急に足に嚙み付いてくる。この本の執筆をしているときも、何度ねこじゃらしタイムを挟まされ、足に嚙み付かれた痛みでどれほど筆の進みが遅くなったかわからない。

 それでも、全く嫌いになれない。

 むしろ、愛しさがどんどん増していっている。

 みゅう君がいるから、前よりも家から出るのが苦手になってしまったし、仕事が終わったら直帰を心掛けている。

 夜一人でいさせるのがとても可哀想に思えて、今、泊まりの仕事は基本的に断っている。前に、名古屋・大阪・名古屋・群馬というスケジュールの四日間があった。普通に考えて泊まりのほうが楽だが、僕は全日、日帰りを選択した。いくら次の日の現場近くのホテルに泊まったとしても、みゅう君が心配で眠れる訳がないので、結局、精神肉体共に一番ダメージを受ける。

 海外ロケの仕事にいつか行くために十年の有効期限があるパスポートにしたが、使う日は来ないかもしれない。

 家に帰ってきて玄関を開けるとみゅう君が喜びの声をあげて飛び跳ねて出迎えてくれる。それが本当に癒しになっている。どんなにきつくてつらいことがあってもみゅう君が家で待ってくれていて、僕を必要としてくれていることに、すごく救われる。

 現在の僕には、友達は全くいないけど、仲の良い芸人もみんないなくなってしまったけど、みゅう君がいればそれでいい。

 今一番の幸せは、体に良さそうなおやつをみゅう君にあげている瞬間だ。

 いろんなおやつを食べさせてあげられるように、いっぱい働きます。

ほしのディスコ(ほしの・でぃすこ)

本名・星野一成(ほしの かずなり)。1989年群馬県生まれ。マセキ芸能社所属のお笑い芸人。2014年あいなぷぅと、男女コンビ 「パーパー」を結成。キングオブコント2017およびR-1ぐらんぷり2020のファイナリスト。
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2023.05.13(土)
文・写真=ほしのディスコ