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「欲望の資本主義」の怖さ

――番組を通して、作家の方と猫とのさまざまな暮らしを見つめたことで、丸山さんご自身が改めて感じたことはありましたか?

 猫に限らず、例えば今年は卯年だからウサギでもいいと思うんですが(笑)、「野生の本能」「異界の存在」と一緒にあることはやはり大事だということですね。もっと想像力をたくましくするならば、今後はそういう存在がAIになったりもするのかもしれませんが、思い通りにならない違う考え方をする存在が傍らにいることに、日常の中でも思いを馳せることが大切なのではと感じます。

 実は「欲望の資本主義」という企画も「ネコメンタリー」とほぼ同時期の2016年から担当しているのですが、現代社会のあり方自体が、人々に息苦しい思いを与えている面も多々あるように思います。ネット社会が加速させる形で、SNSの意見の行き交いが時に閉塞感をもたらしたり、データの数字などに縛られて心が追いついていかなかったりすることなど。さまざまな領域でデジタル技術が進むことで便利さを感じつつも、そのことに縛られ、同時に疲れを感じている方も多いんじゃないでしょうか。

――確かにいろんな意見を見られることによって、自分の輪郭がなくなっていくようにも感じるといいますか。

 ともすれば、時に「逆立ちした社会」になってしまっているのではないかと感じることがあります。そんなことを言いながら、私も今ウェアラブルウォッチを腕にしていますが、朝起きてよく寝たなという自分自身の素直な感覚より、数値で表れたものの方に引っ張られてしまう時、複雑な思いを抱くことがあります。本来、自分が快適だと感じれば、それはそれで大事な感覚だと思うのですが、実はあまり眠れていないというデータが出た時にどう思うか?

 もちろん科学を否定するわけではありませんが、全てにおいて数値化されることに基準を置いていこうとすると、自分が今どう感じているかがわからない人々が構成する社会になっていってしまいそうで。あなたは今怒っていると言っていますが、AIでは喜んでいると出ていますよというように。それは、ちょっと怖いことですよね。

2023.02.26(日)
文=高本亜紀
撮影=平松市聖