岸井ゆきのが「ろう」の女性ボクサーを演じる『ケイコ 目を澄ませて』が公開される三宅唱監督。

 柄本佑を主演に迎えた『きみの鳥はうたえる』など、国内外で高い評価を得ている俊英が、ジャンルを問わない映像制作について語ってくれました。

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●映画作りの面白さを知り、知恵熱を出す

――幼い頃の夢を教えてください。

 小学校の低学年のときにJリーグが始まったので、まずはサッカー選手。5年生の頃には、プロになるのは諦めましたけど、高校3年までやっていました。そういえば、小学校の高学年のときには宇宙飛行士にもなりたかったですね。

――映画を撮るようになったきっかけは、中学3年生の学園祭で「クラス演劇」に参加したくなかった気持ちからだったそうですね。

 演劇はやりたかったのですが、「なんか違うよなぁ」と思ったんです。それで放送部のビデオカメラを使って、3分ぐらいの短編映画を撮ったんですが、そのときに映画作りの面白さを知り、知恵熱を出しました。でも、そのときに「俺は映画監督になる!」とは思いませんでしたね。あまりに、謎すぎる職業ですから(笑)。

――一橋大学への入学を機に上京し、映研に入り、映画館でアルバイトも始めました。

 漠然とですが、「中3のときに味わった映画作りをもう一度やってみたい」という思いが強かったんですね。それで大学3年になって、周りが就活しているのを横目にして、映画美学校に入りました。映画館のアルバイトと並行して、TV番組のADもやっていたんですが、同じ映像業界のなかでも、自分はやっぱり映画をやりたいんだ、という気持ちになっていました。それで、「CO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)」に応募した短編『スパイの舌』が最優秀賞を受賞しました。

●村上淳に声をかけられ、商業デビュー

――2010年、「CO2」の助成金で、北海道で卒業を間近に控えた高校生たちを描いた初の長編『やくたたず』を撮られます。そこから、村上淳さん主演の商業デビュー作となる『Playback』への流れに関しては?

 『やくたたず』のDVDを村上淳さんに観ていただけることになったんです。村上さんから連絡があって一度お会いすることになり、その翌日には村上さん、渋川清彦さん、三浦誠己さん主演で一緒に映画を作ろうという話になりまして。さすがに「こんなセンタリングパスがくることってあるんだ!」と思いましたね(笑)。

――『Playback』では、「第27回高崎映画祭」新進監督グランプリ、「第22回日本映画プロフェッショナル大賞」新人監督賞も受賞されます。それにより、映画監督を意識されたのではないでしょうか?

 『Playback』を撮影しているとき、26歳だったんですが、周りのスタッフはみんな30歳以上で年上なのに、僕を「監督」と呼んでくれたことが大きいです。当初はそう呼ばれるのが、とても恥ずかしかったのですが、撮影が終わったら、呼び名が「三宅」になっていたので、きっと僕を監督として後押ししてくれたんだと、ようやく気がつきました。あと、「ロカルノ国際映画祭」に参加したとき、監督として作品を背負う責任感のようなものを感じたのも大きいですね。

――『やくたたず』と『Playback』はモノクロで撮られた青春映画ですが、14年には2組のアーティストの楽曲製作を追ったドキュメンタリー『THE COCKPIT』や時代劇ドラマ「密使と番人」を撮られます。

 元々いろんなジャンルが好きで、運のいいことにそういうオファーをいただいた感じです。とにかく周りの方のおかげなのですが、振り返ると、「何をやりたい人か、みんなに分かってもらえてないかも?」という気もします。

2022.12.09(金)
文=くれい響
写真=今井知佑