小泉今日子さんが作家や個性豊かな書店主を訪れ、本とその周りにある世界についておしゃべりをするSpotifyオリジナルポッドキャスト番組「ホントのコイズミさん」。2021年4月から配信を開始し、2022年11月時点で80回を超えています。これまで多数のゲスト対話してきたなかから4組とのエピソードを一冊にまとめた「YOUTH」編を刊行。書籍を通じて広がる豊かな世界について、伺いました。


自分の枠を超えることで新しい扉が開く

――1960〜80年代の写真集やエッセイが揃う中目黒の「COW BOOKS」、作家や研究者が選書する赤坂の「双子のライオン堂」、インスタレーションのように本を並べる世田谷の「SNOW SHOVELING」といった、個性が際立つブックストアの店主と対談をしています。会いたいと思ったきっかけはなんだったのでしょう?

 大型書店の撤退に象徴されるように、この20年くらいで本屋さんを取り巻く環境は大きく変化をしていますよね。一方で、韓国文学だけを扱うとか、ギャラリー&ショップやカフェを併設する店などオーナーの趣味や好みが色濃く反映された独立系のブックストアは年月を経るたびに増えている印象がありました。紙媒体を取り巻く環境が明るいとは呼べない状況で、わざわざ書店を開く。その奥底にはとても強い意志がありそうだと。そんな方々に「あなたはここで何を売りますか? 本以外に何を売っているんですか?」と聞いてみたくなったんです。

――対話をしてみて、どんな景色が見えましたか?

 それぞれの道を歩みながらも、ちゃんと手をつないでいるところですね。みんなでおもしろい世界をつくろうと、ちょっとずつ進んでいます。そんな光景を目の当たりにできるのは、気持ちがいいです。リスナーからイギリスの田舎の本屋さんの情報をいただいたり、さまざまな書店の方が番組をアピールしてくださったりすることも。そんな経験を通して、私もみなさんと手をつなげているような気がしています。一冊が持つ力と視野の広がりを感じているところです。

―― 一冊が持つ力とは?

 書籍のオリジナル企画として「双子のライオン堂」の店主・竹田信弥さんとライター・田中佳祐さんと読書会をしました。フランツ・カフカの『掟の門』を課題作にそれぞれの感想を語り合ったんです。そしたら、門に対する概念や解釈が3人ともバラバラで。解釈を聞くたびに発見がありました。それは、登場人物のルックスや周囲の環境が視覚的に描かれていない小説ならではなのかもしれないですね。

 また、物語の世界に潜り込むというのは、一旦、自分の内側も旅をします。その道のりで経たものを言葉にする。口に出すうちに脳内も整理されるので、それも新鮮。語らいによってストーリーとエピソードが染み込んでいき、立体的になります。異なる意見や考えに対する理解も深まり、私自身の想像力にも幅が出てくるんです。そんな話ができるのは、すごく豊かな時間でもありますよね。

 SNSで好きな人だけをフォローしていると、どうしてもタイムラインが似たような境遇や思考に偏ってしまいます。そのうちに、それが世の中の大多数の声に見えてきてしまうんですよ。でも、一歩外に出ると、そうじゃない。本はいろんな捉え方があることを思い出させてくれます。「知る」ことは、キャパシティーを大きくしてくれるんですよね。

2022.12.08(木)
文=松岡真子
写真=平松市聖
ヘアメイク=石田あゆみ
撮影場所=北沢書店