紅葉と滝と温泉で知られる大阪の奥座敷・箕面。久しぶりに出かけたら、大滝への滝道にイタリア料理店やカフェができていてびっくり。以前ずらりと並んでいた土産物屋さんも少なくなっていて、名物の「もみじの天ぷら」の店は、40軒余りあったのが、今は15軒くらい。それでも、滝道を歩くと、もみじの天ぷらを揚げる甘く香ばしい匂いが漂ってきます。

 1300年余り前、箕面山で修行していた役行者(えんのぎょうじゃ)が灯明の油でもみじ葉を揚げて修験道場を訪ねる旅人に供したとか、西江寺(さいこうじ)の本尊・聖天様に、楓の葉を油で揚げてお供えをしたのが始まりとかいわれる、歴史あるもみじの天ぷら。明治時代初めごろに箕面大滝付近でお土産品として売り出され、明治43年に阪急電車が箕面有馬電気軌道を開通させてから観光客が増え、広く知られるようになったといわれています。

 阪急電鉄箕面駅から滝道に入って3軒目の「久國紅仙堂」は、1940年からもみじの天ぷらを始めました。「一年中、もみじの天ぷらを揚げているのは、5軒くらい」と女将・久國節子さん。1枚ずつ葉っぱに衣をまとわせて油に投入し、こんがり色良く揚げていきます。油の温度を調整し、裏返しタイミングよく引き上げるのは、ベテランならでは。

 「山の葉っぱを拾って使うと思われていますが、そうではない」と笑います。お天気のいい日に収穫した紅葉の葉っぱを水洗いし、塩漬けにして一年以上寝かせてアクを抜きます。それを流水で塩抜きしてから、形の美しい葉っぱを1枚ずつ整える。そして、水気を拭いて、砂糖やゴマなどを加えた衣を付けて菜種油で揚げるのです。一年がかりのこだわりの天ぷらなのでした。

 「久國紅仙堂」では、1970年頃から山の土地を購入。「赤い葉は油で揚げると黒くなってしまうから」と、黄色く色づく一行寺楓という品種の苗木を100本近く植えて手入れし、無農薬栽培のもみじの葉を確保してきました。5年前からは、さらに別の山の土地を借りて200本を植え、今後に備えています。

 材料である紅葉した葉っぱは仕入れることができないからです。「天候によっては、葉が一晩で落ちてしまったり、突然の雨に打たれてしまったり。通常の半分以上がダメになった年もありました。無農薬の自家栽培なら安心して使えますしね」

 小麦粉、砂糖、ゴマの衣で、菜種のしらしめ油で揚げる昔ながらのもみじの天ぷら。カリッとした軽やかな歯ざわりで、かりんとうを思わせる香ばしさと甘み。「久國紅仙堂」のものがおいしいのは、一昼夜かけてしっかりと油切りをしているから。後口がとてもすっきり。次々に食べたくなります。

2022.11.13(日)
文・撮影=そおだよおこ