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仕事は人生の50%。残りの50%を自分のために使うことで、豊かになれる

小川 でも、林さんお忙しいのに、よくお休みがとれますね。

 緊急報道に対応できるようにすることが前提ですが、土曜日は基本的には休みをいただいていますし、例えば文楽でしたら、まずチケットをとって、そこに照準を合わせて時間を確保するんです。その日があるから頑張れる、みたいな。今の立場になってから、休みの間も気が抜けないっていうのはあります。世の中では常に何かが起きていますし、気持ち的に本当にフルに休めるかっていうと、ちょっと難しい。でも私、基本的にそんなに仕事人間じゃないので。

小川 えっ、林さんが?

 遊びの時間が好き(笑)。新入職員への挨拶でいつも言うんです。自分の人生の50%を仕事にして、残りの50%は自分のプライベート、心の栄養のために充ててくださいって。

 それは別に仕事で手を抜いていいということではないんです。人生において100%仕事にコミットしてしまうと心にゆとりがなくなってしまう。たとえば、仕事で失敗したときに、自分が100%否定されてしまったようなダメージを受けてしまうと思うんです。50%にしておけば、何かあっても自分のダメージも少ないし、残り50%を自分自身に充てることで、人としてより豊かになれるし、それがよりよい仕事にもつながるじゃないですか。自分もそういうふうにやってきましたし、新人にも必ず言います。

小川 林さん自身は、その50%への切り替えはどういうふうになさっているんですか?

 うーん、まず、家に帰ったらできるだけ仕事のことは忘れます。どうしても仕事しなければならない時もありますから、そういう時は逆に職場に出るようにしています。それと「この日はこの舞台を観るから休む」という決意でチケットを確保します。そのチケットを気持ちの切り替えに使います。我が家の本棚にチケットを並べるコーナーを作ってあるんですよ。チケットの枚数が減っていくと寂しいから、次のものを予約する、みたいな。並んでいるチケットを眺めているだけで気持ちがいいです。

小川 その時間こそが切り替えになっているわけですね。じゃあ、これまでご覧になった舞台のチケットはコレクションされているんですか?

 あ、チケットの半券は舞台が終わったら捨てています。過去を振り返らない。

小川 それはお見事ですね! (笑)

――お話を伺っていると、林さんはすごく好奇心旺盛にさまざまなものを取り込んでおられるように感じます。

 うーん、多分、好奇心は強いほうだと思いますし、すごく大事なものだと思っています。今年の新入職員の入局式でも、とにかく好奇心は常に強く持っていてほしいと伝えました。世の中はとにかく多様で、たとえば1万の人がいたら1万通りの生き方がある。それを知るには、好奇心を持ってアンテナを高く持っていなければいけないし、それがないと、メディアで仕事をする者として、きちんとしたものを発信することは絶対にできないと。自分自身もずっとそう思ってきましたし、人間の内面を育てるという意味でも、すごく大事な要素だと思っています。

――林さんのお立場では、やはり人材育成も重要な役割になりますね。

 人事制度改革に携わったこともきっかけの一つとなって、人を育てるということへの関心は深まりましたね。NHKにしても社会にしても、若い人たちが将来に夢や希望を持てるようにしていくことって、すごく大事ですよね。特に今の日本はなんとなく下がり基調なので、もう少し社会が活性化して、社会全体で若い人たちを盛り立てていけるようになればいいし、私なりに仕事を通じてその一翼を担えたらいいなと思っています。

小川 そうですね。私もまだ一人でじたばたしている身ですけど、だんだん後輩も増えてきて、自分が何かを渡す立場になりつつあるんですよね。だから、メディアでの仕事を志したり、メディアの世界で頑張っている女性たちには、なるべく彼女たちを褒める言葉をかけてあげたいなって思っています。自分に強い自信を持ち続けることって本当に難しい時代ですし、女性はその中でも特に難しさがあると思いますので。

 私自身、これまでいろんな人にかけていただいた何気ないお褒めの言葉やメールは、もうスクショして大事にお守りにして励みにしてきたので。そういう言葉を、下の世代にもかけてあげられる自分でいたいですね。

2022.10.07(金)
文=張替裕子
写真=杉山秀樹