早く歌を届けたい気持ちでいっぱいでした

――幼少期からクラシックが好きで、フルートもやられていて。特にベートーベンがお好きだと聞きました。

 家ではよくショパンやモーツァルトが流れていました。母はベートーベンが好きで、私もべートーベンの曲の低い響きが子どもながらに落ち着くものがあったんです。フルートの曲はモーツァルトの方が多いのでよく吹いていたんですが、聴くのはもっぱらベートーベンでした。

 自分の世界に没入できるっていうのもありますし、暗くてちょっと沼のような世界観も好きですね。自分が作っている曲もベートーベンに影響されている部分はあると思います。

 でも、ベートーベンの曲もそうですが、暗さだけじゃなく、いろんな孤独が見えるようになりました。人がいるからこその孤独を感じることもあるし、そこに愛を感じるようにもなりました。

 大人になるにつれて、曲の見え方が変わってきましたね。例えば「寂しい」って思った時にはその理由を探せるようになりました。いろんな人に愛をもらったことで、新しい自分が生まれてきたところもあると思います。

――音楽の道に進みたいと思った一番大きなきっかけを教えてください。

 落ち込んでいた友達の前で、始めたてのギターで弾き語りしたらすごく感動してくれて、「miletちゃんの歌声は力があるからどんどん歌ってほしい」って言ってくれたんです。それをきっかけに音楽の道に進もうと思いました。そこからあっという間に今に至るという感じです。デビューしてすぐコロナ禍になってしまいましたが、ありがたいことにいろんなところで歌わせていただいて、止まることを忘れた汽車のようなスピード感を感じています(笑)。

――デビューから3年弱の間に、東京オリンピック閉会式での歌唱があり、紅白歌合戦への出演が二回ありました。

 とても大きな舞台で歌わせていただいていることに本当に驚いています。これからも全く想像できないことが待ち受けているのかなってワクワクもします。

 元々あり得ないくらい緊張するタイプなのですが、責任感を感じるようになって、緊張している場合じゃないと思うことがすごく多くなりましたね。自分の役割を全うするんだっていう気持ちで歌うようになって。何より一番心強いのは、スクリーン越しでも応援してくれている方たち、届けられる相手がいるということ。だからこそ頑張ろうってすごく思います。

 初めてのツアーはコロナによって二回延期になってしまったのですが、たくさんのスタッフさんが実現までずっと動いてくれていて。やっと、全国で待ってくれていた人たちの顔を身近で見ることができたときには「ファンのみなさん、支えてくれたスタッフのためにも歌っていきたい」と思いましたし、その気持ちが今でも大きなエネルギーになっています。

――映画を観て、謎の病が今の時代とリンクするというお話がありましたが、miletさん自身、コロナ禍でどんな変化がありましたか?

 元々ネガティブになりやすい性格だったんですけど、前向きになったことには自分でも驚きました。ライブが何回か中止になったりしたのでそれは落ち込みましたが、その度に「早くみんなに歌を届けたい」とか「みんなに元気になってほしい」と思って、光の溢れるような曲を書いていて。

 沈んでいく気持ちになるのかと思いきや、「みんなを引っ張っていきたい」っていうポジティブな気持ちが生まれていったんです。音楽を作る立場であることに幸せを感じました。アーティストや映像に携わる方々が大変な思いで作品作りをしているのをひしひしと感じていたので、いろんな作品とより真摯に向き合うようにもなりました。

2022.02.05(土)
文=小松香里
写真=平松市聖