「CREA Traveller」2022年冬号の特集は、「今、行きたい9つの旅」。未知なる土地にそっと触れ、心も体も開放してくれる9つの「旅のカタチ」を提案します。

この記事の掲載号

CREA Traveller 2022年冬号

No Travell, No Life
今、行きたい9つの旅

定価1,350円 (税込)

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 自分の考えやルールが固まってきてしまったと感じるのならば心を揺さぶる、様々な“美”を探しに出かけてみよう。

 本当の豊かさとはなにかを気づくヒントが貰えるはず。注目の5軒をご紹介。


「前橋のためのホテル」がアートと建築で町を活性化

◆白井屋ホテル(しろいやほてる)

 絹産業で栄えた群馬・前橋に、創業300年を超える「白井屋旅館」はあった。旅館からホテルへと形態を変えて営業を続けてきたが、年を追うごとに街が衰退し、2008年についに廃業。

 廃墟と化していたこのホテルを、地元前橋の起業家であり、アイウエアブランド「ジンズ」創業者の田中仁氏が、「地元をどうにかしたい」という熱意で、個人の財団を介して建物ごと購入。

 今の白井屋ホテルを誕生させることになる。

 白井屋ホテルは、著名な建築家である藤本壮介が設計を手がけ、杉本博司、宮島達男、レアンドロ・エルリッヒなど内外のアーティストたちが集結して作り上げた、世界でも類を見ないアートデスティネーションである。

 それどころか、アートを鑑賞する場にとどまらずに、前橋の活性化を最大の目的として歩みを進めている。

 「地元の人にとってもひらかれた場所でありたい」という思いから、ホテルのメイン棟「ヘリテージタワー」が面した国道から、新築の「グリーンタワー」を繋ぐ通路「パサージュ」を開放。

 ホテル内のレストラン「ザ・ラウンジ」にも武田鉄平や安東陽子の作品が展示されており、宿泊しなくとも、アートをより身近に感じられる空間になっている。

 フルーツタルト専門店「ザ・パティスリー」やベーカリー「ザ・ベーカリー」が新たにオープンするなど、白井屋ホテルが取り組む街づくりの進化は止まらない。

Photographs=Ichisei Hiramatsu