「それでも、生きてゆく」

「うまく言えないけど、
 文哉さ、俺、
 お前と一緒に朝日を見たい。
 一緒に見に行きたい。
 もうそれだけでいい」

「ご飯、まだかな」

───「それでも、生きてゆく」10話

 因島まで文哉を探しにやってきた洋貴と双葉は、自殺を図って学校のプールに浮かぶ文哉を発見。彼を救い出し、三人は小さな食堂に入る。料理が来るまでの間、洋貴は文哉を殺そうとしていた事実を伝えた上で、双葉と出会って自分が変わったことを話し始める。

 葛藤の末に彼を許そうとする、12分にもおよぶ長回しセリフは、観ている誰もが胸を打たれてしまう名シーンだった。しかし、普通のドラマならここで涙を流して改心するだろう文哉にはその言葉はまったく届かず、彼は下を向き紙ナプキンをいじり出してしまう。

「最後に母親の写真を見せたことで文哉にも変容の兆しが見えるところが救いではありますが、安易な解決を拒否し、人と簡単に理解し合えないことを前提にコミュニケーションの可能性を追求する坂元脚本の深さと誠実さを見せつけられたシーンでした」(岡室さん)

「最高の離婚」

「誰とでも寝る女の人っているじゃない? いるの。
 わたし、何かのはずみにそうなっちゃうんじゃないかって思うことある」

───「最高の離婚」8話

 元恋人同士の光生と灯里が、チェーン店の居酒屋で二人だけで朝まで飲み明かすシーン。再会してからは敬語でやりとりしていたが、ここではかつての関係性を思い出したかのように話し、接する。

「別れたカップルのあるあるの会話劇をずっとやっているんです。別に何も起きないけど、あまりの生々しさに胸を締め付けられます。実際にある居酒屋の雰囲気とか、時間が経って他の客が居なくなっていく感じとか、途中、座敷で壁に寄りかかって座る感じとか、そういう細かいところが全部リアルで、観ていると思わず入り込んでしまいます」(村上さん)

2021.09.25(土)
Text=Daisuke Watanuki
Illustrations=Sayako Yamashita

CREA 2021年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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