ギネスブックで認定された長寿世界一と高い出生率で知られる徳之島には、自然に育まれた食の文化が今も生きている。長い人生を根底で支える日々の食の原点を徳之島の女性に学ぶ。
第一回は「ましゅや」をご紹介。手作りのましゅ(塩)を使った島ごはんはまさに徳之島の恵み。92歳の店主・水本さんがつくるやさしい料理が堪能できる。
長寿の島で“ましゅ”と自然の恵みの食が伝えること
◆ましゅや
長寿と子宝の島と言われる徳之島。言い換えれば、母も家族も健康に暮らす術を受け継ぐ島で、水本美枝子さんが、お嫁さんや娘、家族とともにもてなす「ましゅや」の食卓は、健やかな島の秘密を解き明かすかのようだ。
浜で採るアオサ、長命草やツワブキ、島筍などの自生する野菜に、島魚の素揚げや豚足のワンフニといった郷土料理も多彩。
器も、汁物椀を除けばすべて、自然の恵み! そして料理の決め手は、ましゅ─水本さんが守り続ける古来の製法による塩だ。
盛夏、連日海岸に通い、潮溜まり(海水の水溜り)の海水を汲み集め、天日で塩分濃度を十分に上げてから炊く。小さな貝やプランクトンなど生物を内包する海水は味わいの深いまろやかな塩になる。
「子どものころは、この塩で味噌や漬物、豚の塩漬けを作っていました。米の取れない集落だから、米に交換したの」と水本さん。
彼女の母が持たせてくれたバナナの葉に包んだ玉子おにぎりも、島の美味しさはどれも、このましゅに所以する。
島の自然の恵みを供す食卓に“ましゅや”と名付けたのも、家族に伝え、守る、水本さんの健やかな思いが込められていた。
Text=Chiyo Sagae
Photographs=Atsushi Hashimoto