シャワーだけでは得られない! 夏でも入浴したいワケ

 お風呂に浸かって体を温めると、疲労物質や老廃物がスムーズに体外へ排出されやすくなります。これだけでも眠りの質の向上に期待ができますが、もうひとつキーワードになってくるのが、先ほどお話しした深部体温です。

 深部体温は、4段階のノンレム睡眠とレム睡眠と連動しているからです。深部体温が下がれば下がるほど眠りも深くなるのですが、入浴後急降下するタイミングで寝つくことが質の良い眠りにつながることがわかっています。

 そのため、入眠前に体温を一時的に上げてあげることがポイント! その高低差をつくる効果的な方法が、入浴なのです。

 これからの季節、お風呂に入るのは億劫という人も多いかもしれませんが、入浴にはシャワーだけでは得られないメリットがたくさんあります。

入浴で得られる作用

●深部体温を上げて、その後の急降下をつくる

 入浴による温熱作用で上がった深部体温は、その後、急速に下がります。脳が「体温が急に上がった、このままだと死んでしまうかも」とびっくりして、自律神経の働きで体温を下げようとするのです。その急降下によって自然と眠気を誘い、質の高い睡眠となり、寝起きがよくなります。

 一方、睡眠には自律神経の働きも関わってきます。自律神経は交感神経と副交感神経に分けられ、基本的に、人が起きて活動している時間帯は交感神経が、リラックス時や夜の就眠時間帯には副交感神経が優位になるとされています。

 新生活で緊張していたり、考えごとや悩みごとなどで脳が興奮状態にあるときは、交感神経が優位になって、手足などの末端の血管がキュッと収縮してしまいます。つまり、体の熱が外に逃げにくく、深部体温がしっかり下がらないということも。

 まずは、副交感神経を優位にしてリラックス状態をつくってあげることが大切です。40℃以下のお湯に入れば、副交感神経が刺激され、温熱作用で血管が開いていき、深部体温も下がりやすい状態になります。

●体の末端と胴体部分の体温差をなくす

 胴体部分の温度と手足などの末端、特に足の皮膚温との差を0℃に近づけると、眠りの質が高まるということがわかってきています。そのためには、胴体部分の温度を下げるよりも足の温度を上げてあげましょう。湯船に浸かって血流がアップすると、冷えがちな末端が簡単に温まります。

 シャワーのみやカラスの行水のような数分の入浴だと、せっかく温めた手足が冷えてしまうことも。お風呂から出て1時間以内にはベッドに入るようにしましょう。

●温熱作用と浮力作用でリラックスできる

 深いノンレム睡眠を出現させるためには、入眠前にしっかりと副交感神経が優位になっている必要があります。40℃以下のお風呂に入ると、副交感神経が働いて精神的にも安らぎ、リラックス状態に。

 また、深い湯船にお湯をたっぷり張って肩まで浸かるなど、湯船が深ければ深いほど、浮力を強く感じます。

 お湯の中では浮力を受けて、体を支えるために緊張していた筋肉がほぐれ、地上では得られない脱力感も。プカーっと浮き、体が軽くなるので、深いリラクゼーションが味わえます。

●深い眠りにつながるデルタ波を増やす

 もうひとつポイントとなるのが、脳波。自律神経の司令塔は、脳の視床下部というところにあります。

 この視床下部の前方にある視索前野の温度が高くなると、深い眠りにつながるデルタ波という脳波が増えることがアメリカの研究でわかっています。

 そして視索前野の温度上昇は、深部体温が上がることでもたらされるといわれているのです。

 シャワーや半身浴ではなく、湯船に首までつかる完全浴でしっかりと深部体温を上げることで、視索前野の温度は上昇しやすくなり、デルタ波を増やすことにつながります。

2021.08.13(金)
文=大嶋律子(Giraffe)
イラスト=押本達希