化粧品容器の装飾は、ヨーロッパで始まったもの。しかし今、化粧品を超えて化粧品芸術を推進するのは、
むしろ日本の職人技だったりする。

 化粧品をただの“物”にしたくない、人を幸せにする化粧品への思いをそこに見る。


日本の職人技がもたらす化粧品を超えた芸術

「美しいものにしか美しいものは作れない」

 日本のメイクアーティストの草分け、植村秀氏は常にそう訴え、スポンジ一つにも美しい形状を要求した。

 何十、何百という色のグラデを見せるメイクカラーのアトリエは、1980年代のパリを驚かせたと言われる。

 もちろん容器の装飾は、ヨーロッパ発祥、しかし現代における化粧品の芸術的表現は、むしろ日本発祥と言っても良い。

 その象徴が熊野筆。「盆まぜ法」という熊野独特の混毛技法は、様々な毛質の混じり具合が絶妙とされ、化粧筆としてむしろ海外からブームに火がついた。

 それを繊細な筆使いが必須のアイライナーにしたいと熱心に職人を訪ねて生まれたのが、今や世界を舞台とするUZUの1,650円の絶品ライナー。

 従来のプチプラとは違う。価格も国籍も超えた絶対名品の海外デビューはコスメ伝説の一つとなった。

 近年、フランス人を驚かせたのが、マカロンで有名な老舗パティスリー、ラデュレの化粧品を創り上げた、これも日本のアルビオン。

 この世にないものを創造したいとの一心でアルビオンから申し出たというラデュレの化粧品制作、半信半疑のフランス人を感動させたのが、花びらのチークであった。

 フランス革命後に時代をリードした淑女たちは実際バラの花びらで頬を赤く染めていたとの史実をもとに、本物の花びらと見まごう美術品さながらのチークを見事、形にしている。

 ブラシで花びらの表面を撫でるようにチークパウダーを含ませたら頬へ。その化粧動作も含め、あまりに耽美的な化粧品は憧れを一身に集める存在となった。

 一体どうやって作るのか? どれだけ手間がかかるのか? 圧巻の作り、その神秘性に使い手は熱いときめきを覚え、美しさの高みに昇華するという仕組み。

 花弁は23枚、形や大きさ、葉脈までが異なる4種類の花弁の1枚1枚が金型から作られ、特殊な方法でパウダーを付着させる過去に例を見ない手法だが、なるほど発想はケーキ作り。

 そこが見事にラデュレだが、花びらを模倣するのはむしろ和菓子の着想と技術、現代でこそ成立する和洋折衷の化粧品作りと言っていい。

 ちなみに造形職人が一昨年亡くなられ、さらなる造形コスメの開発はもはや難しいとされている。

Text=Kaoru Saito
Photographs=Hirofumi Kamaya

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