【悪気はなくても特許法違反
意図的なら不正競争防止法違反になる】

 転職先の会社に技術面で貢献できることは、技術者として大変うれしいことかもしれません。

 ただしその技術が、特許権や営業秘密の対象になっている場合、法律上の問題が生じます。

 あなたが転職先の会社において、無断で前職会社の特許発明に関する物を製造したり、製造法その他の方法を用いたりすれば、特許権の侵害になります。

 また、製品の構成の一部を変えていても特許権侵害を免れるとは限らない点に注意が必要です。

 特許の願書に記載されている技術的範囲の記載と一部異なったとしても、実質的に同一な場合には特許権侵害になることがあるからです。

 特許権侵害となれば、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方を科せられることがあります(特許法196条)。

 さらに、前職会社から損害賠償請求などを受ける可能性もあります。

意図して秘密情報を持ち出せば

 以上は意図したかどうかを問いませんが、もしも不正の利益を得る目的または前職の会社に損害を与える目的で、前職で職務上取り扱っていた営業秘密を使用した場合は、不正競争防止法違反となるおそれがあります。

 この場合も損害賠償を請求される可能性があり(同法2条1項7号)、一定の場合には、10年以下の懲役もしくは2,000万円の罰金、またはその両方を科せられることもあります(同法21条1項6号)。

 特に製造業の分野では、転職に際して秘密情報を不正に持ち出すなどして有罪判決を受ける例は後を絶ちません。

 知的財産は企業の財産です。

 転職先で活躍したいからといって、前職会社の特許発明や営業秘密を無断で使用すれば痛い目にあうので気を付けましょう。

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菊間千乃(きくま ゆきの)

弁護士法人松尾綜合法律事務所弁護士。早稲田大学法学部卒業。1995年、フジテレビ入社。アナウンサーとしてバラエティーや情報・スポーツなど数多くの番組を担当。2005年、大宮法科大学院大学(夜間主)入学。07年、フジテレビ退社。11年、弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。19年、早稲田大学大学院法学研究科先端法学専攻知的財産法LL.M.コース修了。紛争解決、一般企業法務、コーポレートガバナンスなどの分野を中心に幅広く手がけている。