心身を自然の中で開放したい……。そんな滞在者の願いを叶えるために「庭」を最良の御馳走として用意してくれる宿がある。今回はそんな宿を3軒ご紹介。
自然に触れながら、ゆったり過ごす時間こそかけがえのないおもてなし。そう確信させてくれる場を、訪れてみる。
昭和のモダン住宅が 街と一体化する宿へと生まれ変わる
●LOG(ログ)
古くから港町として栄え、数々の映画や文学の舞台にもなった坂の街、尾道。市街地から桜の名所として知られる千光寺へと続く坂の途中に「LOG」はある。眼下に広がる街並みと対岸の島を隔てる尾道水道がのどかな風景を描き出す。
LOGは、昭和38年に建てられた当時としてはかなりモダンな鉄筋コンクリートのアパートを再生した複合施設だ。1、2階は、誰でも利用可能なカフェやショップなどのパブリックスペースで、3階は6つの客室とラウンジを兼ねるライブラリーを備えたプライベート空間になっている。
手がけたのは世界的な建築家、ビジョイ・ジェイン氏が率いるインドの建築集団、スタジオ・ムンバイ・アーキテクツ。彼らにとって自国以外では初となる建築プロジェクトだ。
特筆すべきは、街と建物と庭の融合。壁や窓を大胆に取り払い、館内にスケルトンのスペースを点在させることで、山側の庭、海側の庭と中央の建物を一体化させた。
開放感溢れる空間は風が通り抜け、どこにいても心地がいい。残された柱と壁が創り出すフレームは、1枚の写真のように庭の風景を映し出す。また2階のオープンスペースに新たに設置された、海側の庭へと延びる外階段が山から海へとつなぐ坂道を表現する。
庭とは本来、外の世界と私的空間である建物をつなぐ存在だが、LOGではショップのオープンから日没まで門が開かれ、地元の人や旅人が誰でも自由に出入りでき、この空間自体がコミュニティの“庭”になっていることを感じる。
ビジョイ・ジェイン氏は、衣食住のすべてにおいて「循環」を大切にする。中庭にあった日本家屋を解体した時には、屋根の瓦を庭の敷石に加工し、土は土間や壁に再利用した。
空き家時代に手入れされずにどこまでも大きく育った橙や桜、松などの大木は、景観を配慮して多少は剪定したものの、庭のシンボルとして大切に扱う。
新たに植えたミントやレモングラスなどのハーブ類はダイニングやカフェで利用する。
古家を生かし、廃材を再利用し、古木を手入れし、新たな草木を植える。今あるものに少し手を加えることで、過去から現在、そして未来へと持続可能な場にしているのだ。
LOG(ログ)
所在地 広島県尾道市東土堂町11-12
電話番号 0848-24-6669
客室数 6室
料金(1名)
デラックスダブルルーム31,350円~
スタンダード2ベッドルーム28,600円~(いずれも夕朝食付き)
https://l-og.jp/
Text=Yuka Kumano
Photographs=Atsushi Hashimoto