心身を自然の中で開放したい……。そんな滞在者の願いを叶えるために「庭」を最良の御馳走として用意してくれる宿がある。今回はそんな宿を3軒ご紹介。

 自然に触れながら、ゆったり過ごす時間こそかけがえのないおもてなし。そう確信させてくれる場を、訪れてみる。


「水庭」と共に過ごす休日 時の流れに身を浸す

●アートビオトープ

庭園内に築かれた「水庭」。朝靄に烟るさまは、水墨画の世界に迷い込んでしまったかのよう。

 気づけば足元を、しきりに何かが跳ねて横切っていく。鮮やかな緑色をした、ごく小さなカエルだった。水溜まりへ飛び込み去る姿を見送りながら「生命の躍動」そのものと出合えた充実感に浸った。

建築家・石上純也氏が手がけた「水庭」。

 悠々たる那須連山の麓、アートビオトープの一角にある「水庭」でのこと。

 アートリゾートを標榜するアートビオトープは、同地を代表するラグジュアリーリゾートだった二期倶楽部の文化施設として、2007年にオープン。2020年には新たに、スイートヴィラ14棟とレストランを新設した。

土地の石材を利用して築かれたヴィラ外壁。

 この地で、自然と融合する体験をしてもらいたい。そんな根本思想の通り、ここでは自然との距離が非常に近い。いや、もっといえば自然と一体化し、その懐に抱かれて時間を過ごせるような環境が用意されている。

スイートヴィラの読書テーブルから屋外を望む。

 とりわけスイートヴィラに居場所を定めれば、大きな開口部から眼に飛び込んでくるのは、深い色を湛えた自然の緑のみ。耳はといえば、流れ行く小川の音や鳥たちの鳴き声で満たされる。

「レストランμ」内観。ガラス窓の遥か向こうには「水庭」が見える。ランチ 7,000円、ディナー 14,000円(いずれも税サ別)、ランチはビジターも利用可。

 食事は朝夕とも、地産地消の滋味深いメニューをレストランで堪能できる。

左:“各種トマトのサラダ、凍ったトマトのパウダーがけ”。
右:“那須牛のロースト、地元野菜添え”。
「レストランμ」は全員20代、7人の厨房スタッフが、新しい伝統の味を築き上げようと仕事に打ち込んでいる。

 滞在中の時間は、自由に散策できる「水庭」で過ごすのがいい。

 野球グラウンド一面がすっぽり入る敷地内に、どこまでも木立が広がっている。足元にはビオトープと呼ばれる無数の水溜まり。その間を縫うように置かれた飛び石を辿って、内部を歩き回れるようになっている。

京都イワタによる最高級寝具。

 自然が生んだ地形ではなくて、植生から水の配置や流れに至るまで、すべてが計算し尽くされ配された人工の庭だ。日本建築学会賞など多数の受賞歴をもつ建築家・石上純也氏が手がけた。

フリッツ・ハンセンのスワンチェアがリペアされて置かれている。

 それぞれのビオトープはパイプでつながっていて、脇を流れる川から取水された水が循環した後、川へ還っていく。

スイートヴィラ各戸には野天風呂が付く。網代編みの大きな扉を開閉して内風呂にもできる。

 鴨長明が『方丈記』に遺した、「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」との言葉を想起する。

 ビオトープの水面は訪問者の内面を映し出す鏡であり、ここは哲学的思索の場なのだと思い知る。

レセプションには自由に手に取って読める書籍がずらり。

アートビオトープ

所在地 栃木県那須郡那須町高久乙道上2294-5
電話番号 0287-74-3300
客室数 スイートヴィラ 15室、レジデンス棟 20室
料金(1名) 
レジデンス棟ツインルーム 18,700円~
スイートヴィラ・ツイン(手前の川沿いエリア) 49,610円~
スイートヴィラ・ツイン(奥の森側エリア) 53,420円~
コネクティング・ツインルーム(手前の川沿いエリア) 57,050円~
(いずれも夕朝食付き[税サ込])
https://www.artbiotop.jp/

Feature

贅沢な時間が静かに流れる
心を放つ、もてなしの庭

Text=Hiroyasu Yamauchi
Photographs=Masahiro Sambe

この記事の掲載号

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CREA Traveller 2020年秋号

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定価1,350円 (税込)

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在は異なる場合があります。