心身を自然の中で開放したい……。そんな滞在者の願いを叶えるために「庭」を最良の御馳走として用意してくれる宿がある。今回はそんな宿を3軒紹介。

 自然に触れながら、ゆったり過ごす時間こそかけがえのないおもてなし。そう確信させてくれる場を、訪れてみる。


日本の自然と文化の最上級が 凝縮されて詰まっている

●アマン京都

「大切なものは目に見えないんだよ」

 とは『星の王子さま』の有名な台詞だが、この環境に身を浸していると著者サン=テグジュペリに少々反論したくなる。

 光そのものや自然の息吹、先人が築いた伝統と文化の厚み……。そうした大切なものの存在が、ここでは手に取るようにありありと感じられるから。きっと日頃の雑念から解放される分、自身のあらゆる感覚が研ぎ澄まされていくのだろう。

 京都洛北、金閣を有する鹿苑寺奥の鷹峯地区で、約2万4千平方メートルの敷地に展開されるアマン京都のことである。

 一帯は江戸時代初期、本阿弥光悦が徳川家康より拝領し、芸術村を築いた地として知られる。光悦といえば陶芸、漆芸、書、作庭、茶事などをよくし、日本美の中核を成す琳派の創始者として、後世に名を轟かす。

 そんな大人物ゆかりのこの地は、さしずめ日本文化の精髄が宿る京都の奥座敷とでも言えようか。プライベート感溢れる美しきリゾートを提唱するアマンとしては、京都に拠点を設けるにあたって、またとない土地を選んだ。

 敷地全体をひとつの庭として構想したのも、土地をよく知り解釈した上でのことと思われる。さらに特筆すべきは、敷地内のあらゆる場所から漂う貫禄だ。2019年のオープンと歴史は浅いのに、この落ち着きぶりはいったい何事か。

 種を明かせば、以前の土地所有者が壮大な美術館の創設を夢見て、先んじてここで庭づくりを進めていたのだ。2千本を超えるモミジを手入れし、丹波の地から名石を多量に運び込み、山の湧水を引き土地を潤わせ、青々と苔を根付かせた。

 そうした土地の歴史を受け継ぎ、アマン京都は誕生した。

 すでにそこにある日本の自然と文化の最上級を引き立たせるべく、客室やレストランなどは、最上質を保ちつつさりげなく配されている。

 滞在中は、自分も庭の一部となった気分で過ごすのが一番だろう。

 さすれば先述したように、「目に見えない大切なもの」が身に迫る。古来の時間が折り重なってそこに「在る」ことまでもが、はっきり感じられてくるはずだ。

アマン京都

所在地 京都府京都市北区大北山鷲峯町1番
電話番号 075-496-1333
客室数 芒4室、楢7室、楓7室、蛍6室、鷹ヶ峯スイート1室、鷲ヶ峯パビリオン1室
料金(1名) 芒110,000円~、楢120,000円~、楓130,000円~、蛍150,000円~、鷹ヶ峯スイート550,000円~(いずれも1室2名利用)、鷲ヶ峯パビリオン800,000円~(1室4名利用)
https://www.aman.com/ja-jp/resorts/aman-kyoto

Feature

贅沢な時間が静かに流れる
心を放つ、もてなしの庭

Text=Hiroyasu Yamauchi
Photographs=Atsushi Hashimoto