神出鬼没、正体不明、非合法……。今や現代アート界の大スターといえば、バンクシー。その彼(あるいは彼女!?)の作品70点以上が一堂に会する非公式展覧会が横浜に登場。
モスクワ、マドリード、香港など世界5都市で100万人以上を動員した話題のアートイベントで、しかも過去最大級の規模。まさに必見だ。
バンクシー・ワールドを旅する 非日常の展覧会
会場に入ると、まずは3面スクリーンによる映像インスタレーションが。見終わった瞬間、どっぷりと“バンクシー・ワールド”にはまっているのに気づくはず!
【Keep it real(自分らしく生きろ)】もの悲しげなサルが発する このメッセージに何を感じるだろうか。
年齢、性別などすべて不詳。人気バンドのメンバーではないか? 複数存在するのではないか? 様々な憶測をよびながら、ロンドンの名門博物館に忍び込んでゲリラ展示を決行したり、ダイアナ元妃の肖像が印刷された偽ポンド紙幣をばらまいたり、“芸術テロ”で世間を騒がせてきたバンクシー。
【We are Banksy Rats!】バンクシーといえば、ねずみを思い浮かべる人も多いはず。今回の展覧会では“バンクシーラット”が会場にいっぱい! 大都会の片隅でたくましく生き抜くねずみたち。その姿を描いた壁の落書きアートに不思議と見入ってしまうのは、そこに自分自身の姿を重ねてしまうからなのかもしれない。
初監督の映画作品がアカデミー賞にノミネートされるなど、マルチな天才ぶりを見せつけつつ、最近では、オークションにて有名作《モンキー・パーラメント》が約13億円で落札されるなど、日々、人々を驚かせ続けている。
【Punks not dead(パンクは死なない)】ピンクの背景のなか、ゆったりくつろいで編み物を楽しんでいる2人のおばあちゃんを描いた《グラニーズ》。一見平穏に思えるが、編んでいるセーターには「Punks not dead(パンクは死なない)」「Thug for life(俺のやりたいように生きるぜ)」の文字が。とてもいい笑顔である。
今回の展覧会では、個人コレクターの協力により、オリジナル作品を間近に目にすることができるほか、期間限定でイングランドにオープンした憂鬱なテーマパーク《ディズマランド》や、パレスチナに建てられた世界一眺めの悪い《ザ・ウォールド・オフ・ホテル》を体感できる展示も見どころだ。
バンクシーを代表する作品であり、そのうちの1枚があの有名な“シュレッダー事件”の主役となった《ガール・ウィズ・バルーン》。飛んでいくハートの風船に、自由な心を感じるか、それとも離れていく心を感じるか。
会場内の一角には、バンクシーが制作活動の拠点にしているスペースを再現したインスタレーション“アーティスト・スタジオ”が。雑然とした空間に静かに佇んでいるのは、もしかして……。
そして、バンクシーのいちばんの魅力といえば、その作品を前にしたとき、誰もが何かを感じずにはいられないところ。そこに込められた作者の真意は謎に包まれており、何を感じるか、何を考えるか、すべてはあなた次第だ。
2003年にリリースされたロックバンド「ブラー」のアルバム《シンク・タンク》。9.11後の不穏な世界情勢のなか、反戦運動に取り組むメンバーに共鳴して、バンクシーが無償で提供した作品だ。
今後は大阪をはじめ、各地での巡回展も予定されているとのこと。
アンディ・ウォーホルの伝説的な作品への強いリスペクトが感じられる《ケイト・モス》。青色でデザインされた初版以降の6枚がずらりと並ぶのは、非常に珍しいとのこと。
海外へ作品を見に行くことが難しい今、バンクシーを通じて、世界各国を旅する気分になれるのも楽しい今回の展覧会。
《ウェストン・スーパー・メア》を目にしたとき、昨今の“ソーシャル・ディスタンシング”を連想するかもしれない。この作品が初公開されたのは2000年のこと。地を這って迫りくる危険にベンチに座る男性は全く気づいていないようだ。この作品は一体何を暗示しているのだろうか。ここから何を思い、感じるか。すべてはあなた次第なのである。
あの有名作品の前で記念撮影が自由というのも嬉しいポイントだ。
バンクシー展の図録。180Pにも及ぶボリュームで展示作品がおさめられているので、理解を深めるためにはうってつけ。白と赤の表紙の2種類の展開。
Edit & Text=Shojiro Yano
Photographs=Atsushi Hashimoto