コロナ禍で気づいた 歌舞伎俳優の本分

 18代目中村勘三郎が鶴松さんに遺した課題は他にもあるそうで、自身の3番目の息子として鶴松さんの未来を具体的に思い描いていたことが窺い知れます。

 その思いに気づいた鶴松さんは、これまでの経験を糧にしながら、与えられた課題に取り組もうとする意欲に満ちています。

 ところが、現在はコロナ禍による歌舞伎公演中止という前代未聞の苦難に直面しています。多くの芸術家たちがその才能を発揮することができない自粛期間中は、どのように過ごしていたのでしょうか?

「僕はこれまで歌舞伎という好きなことをやらせていただいてきたので、歌舞伎を仕事だと思ったことも、お金を稼いでいるという意識も全くありませんでした。

 新型コロナウイルスの影響で休みの日々が続いていますが、舞台に立たせていただいたことがいかにありがたいことだったのか、身に沁みるほど感じています。

 最初の頃は毎日映画をひたすら観ていましたが、最近では韓国ドラマにハマってずっと観ています。韓国の俳優さんの演技は素晴らしく勉強になることばかりです。

 あとはプランターで小松菜や大根を育てることにも挑戦しました。緊急事態宣言が解除されてからは、サウナに行って“整う”というものを経験して、それが快感になってしまいました。

 これまでできなかったことを試すことで、意外と楽しんで過ごしています。次は乗馬の練習を始める予定で、いろんな趣味が増えました。

 以前のような舞台公演が行われるにはまだ時間や工夫が必要になりそうですが、今できることをやって、公演の再開に備えておきたいと思います」

中村鶴松(なかむら つるまつ)

1995年3月15日生まれ。東京都出身。2000年5月歌舞伎座『源氏物語』竹麿役に本名の清水大希で初舞台。以来、子役として数多くの舞台に出演。2005年5月歌舞伎座『菅原伝授手習鑑』車引の杉王丸で2代目中村鶴松を名乗り、18代目中村勘三郎の部屋子として披露される。2018年6月平成中村座スペイン公演では『連獅子』に出演。

中村屋“3人目の倅”
中村鶴松の素顔

2020.07.24(金)
文=山下シオン
撮影=佐藤亘
スタイリング=木村厚志
ヘア&メイク=AKANE
衣装クレジット=ブルゾン62,000円、Tシャツ8,500円、パンツ42,000円/Y's BANG ON!(ワイズ プレスルーム)