車窓を楽しむ鈍行列車の旅

 冬を告げる冷たい空気が木々を美しく染めるころ。紅葉する山を見たくて、山岳地帯のあるイタリア北部へ行きました。

鈍行列車の車窓を流れる景色。朝もやに煙るトスカーナ平野

 実は私、ちょっとした鈍行列車マニア。列車の時刻を調べ上げ、鈍行を乗り継いでどこまでも行きます。ただ急行に乗るお金がおしいというのもあるけれど、鈍行列車の車窓を眺めるのが好きなのです。これが特急だと速すぎてよく見えない。

 フィレンツェから鈍行列車を乗り継いで行くこと約7時間。車窓の景色は、トスカーナの平野から、やがて深い谷を刻んだドロミテ渓谷を映し出します。切り立った山々の裾野を紅葉した木々が彩る。日本の紅葉は赤や黄と色とりどりだけど、こちらは黄一色。斜めに射す冬の光を反射して、暖かい陽だまりのように明るく金色に輝いていました。

左:イタリア国鉄とローカル線SADが乗り入れるメラーノ駅。国境に近いこの駅ではイタリア語「Merano」とドイツ語「Meran」の2カ国語での表記が
右:この地方特産の白ワインはフルーティかつ力強い風味が特徴。同じく特産のスペックやサラミと共に

 車窓の景色が一面のりんご畑に変わったらメラーノという町に到着です。イタリア北部、トレンティーノ・アルトアディジェ州にあるこの町は、りんごや白ワイン、スペックというハムなど、おいしいものがたくさんの地方です。

 もちろんそんなおいしいものを逃す訳はなく、あとで夕食にしっかりいただくことにして、鈍行列車の旅はまだまだ続きます。ここから、チロル山岳地方を走るローカル列車に乗り換え、更に山を上りました。

<次のページ> チロル山岳地方を上るローカル列車