走行距離95キロ
時空を超えた島の旅
粗削りの自然が広がるこの島では、“マナ”や“スピリット”といった、目には見えないものの存在も、不思議と信じられる。
そのせいか、島には多くのティキ(守り神)の石像が点在している。
ガイドの話によると、考古学者によって250体のティキが発見されたけれど、宣教師によって破壊されたものもあり、山の中には900体以上が眠っているのではないかという。
ティキ像などには伝統的な手法が使われている。一説ではフレンチポリネシアのアートの起源はマルケサス諸島だとする声もある。この島の空気が、感覚の深部を刺激してアートが生まれるのでは、と思えてくる。
島の深部や入り組んだ海岸線を4WD車で走行しながら、自然やカルチャーについて話を聞く1日ツアーに参加してみた。
南部のアツオナの村から北部へ、そして東部へ。車が行くのは赤土がむき出しになった道や、ガードレールもない断崖、時に野生のヤギの群れに行く手を阻まれることもあった。
見たこともない形の山塊や、カルデラ状の入り江が続く。いくつかの入り江を過ぎて、小さな村に入ると、小さな教会がぽつんと立っていたりする。
イイポナの遺跡では、一段高い位置にフレンチポリネシア最大の高さ2.67メートルのティキ“タカイイ”が鎮座している。
うつ伏せに空を飛ぶポーズの像(ティキ・マキ・タウア・ペペ)は、出産をしている女性だそうだ。
足を延ばして座っている、タカイイの妻とされる座像もある。森の中の小さな王国へ迷い込んだ気分だ。
総走行距離95キロ。実際の距離に加え、古代マルケサスへと時も遡ったような1日だった。
2019.09.02(月)
文・撮影=古関千恵子