「走れ正直者」で涙腺崩壊!

 この日はデビュー20周年の際に開催された、1991年の『HIDEKI SAIJO CONCERT TOUR '91 -FRONTIER ROAD-』の映像がメイン。

 そしてコンサートの1時間、私は興奮で我を(取材を)忘れた。

 デデンと大画面に映るヒデキの麗しい顔。その途端ザッという音とともに立つファン。会場にドドッと溢れる、ペンライトの光の波!

「ヒデキ――――ッ!!」

 気がつけばここ何年も出したことのないカン高い声をはりあげていた。

 私だけではない。んもうあちらこちらから高音低音涙声金切声あらゆるトーンで聞こえる秀樹ひできヒデキHIDEKIの歓声。

 その一体感に背中を押され、二の腕をブルンブルン振り回し、もう夢中で聴く叫ぶ踊る!

「やめろと言われても~♪」「ヒデキー!」
「Y! M! C! エーイ!」

 歌とともに揃う合いの手。ペンライトが揺れる、会場全体が揺れる!

 「走れ正直者」で涙腺が崩壊したのは我ながら驚いた。まさかソーセージだのハムだの、泣きながら加工食品の名称をさけぶ日が来ようとは。それほど大画面で見るヒデキのシャウトがロックだったのだ!

 洋楽のカバーも多く、その声量・歌唱力の迫力に「海外でも絶対通用するよなあ」と改めて驚愕し、時々混じる涙声の歓声にもらい泣きし。

 終わった……。あっという間だった。振り過ぎてペンライトを飛ばしそうになったよ!

「なんであんなにかっこいいんですかね」
「ハイ、本当に」

 会場の電気がついて、自然に隣のマドモアゼルと感動の交換会。ああ、これか。無理に話しかけなくてもいいんだな。お互い満面の笑みだが、瞳はうるうるである。

 一緒にペンライトを小さく振って、声が揃った。

「ヒデキ、最高!」

 そうなのだ。ヒデキを追う人は不思議と、

「かっこいいですよね」

 現在進行形で彼を語るのである。

 愛は止まらない。それどころか最近初めて彼の歌声に触れ、愛し始めた若きファンも増え、新たな「西城秀樹」が始まっている。これってなんてすごいことだろう。

 ただ、ライブは楽しいほど帰りが寂しい。

「リーンリン、ランラン……」

 会場を出ると、豊洲のブルースカイブルーが猛烈に沁みる。「走れ正直者」、良かったなあ。一周忌記念、で終わらず、またこういったイベントがあってほしいなあ。

 その時はまた思いきりペンライトを振るぞ。そして叫ぶぜ、ヒデキ最高、と!

田中 稲(たなか いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)など。
●オフィステイクオー http://www.take-o.net/

Column

田中稲の勝手に再ブーム

80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。

2019.06.10(月)
文・撮影=田中 稲