《Throne》の玉座や球体の意味は?
建築家のイオ・ミン・ペイ氏が設計したルーヴル美術館 ピラミッドは、パリの街と美術館をつなぐプラットフォームとして、入口から地下ロビーにアプローチするように作られている。
「イオ・ミン・ペイ氏のピラミッドは、ここをプラットフォームとして過去・現在・未来にアクセスするようなイメージもあり、古代から中世、近代に至るまで、王権時代に残された芸術品や装飾品を世界中からコレクションしているルーヴル美術館を象徴する建物だと思います」と名和氏は評する。
そして、「このピラミッドに一番合う彫刻とは何か」と考えたときに《Throne》のイメージが湧いたという。
《Throne》は正面中央の下方に、子供が座れるくらいのサイズの小さな椅子が配されており、ここだけ、ほかの金箔とは違う質感で、より輝いている。
「エジプトのピラミッドは権威や権力の象徴であり、何千年も前から人間の世界には権威や権力は有り続けています。現代社会においてもそのような力が未だ無くなっていないと感じるのは、それが人間の性だから。では、何が未来の権威や権力になりえるのか、と考えたら、新しいコンピュータや人工知能に代表される“新しい知性”ではないかと。政治も経済も深く影響を受け、追従せざるを得なくなるくらい知性が進化するという予感を、皆が持っています。僕には、その知性がまだ幼い子供のような存在に見えたので、椅子の部分を小さくし、あえて空位の玉座として表現しました」
作品の前面と背面にはプラチナ箔で覆われた鏡面の球体が配されている。この球体は世界を映す目を表現しており、正面の球は未来を、そして地下から見上げて目にする球は過去を見据える目だという。
ルーヴル美術館は、過去から現在までの文明の発展の証を蓄積し、その延長が今の私たち、そして今後の未来に続くことを教えてくれる美術館でもある。
「だからこそ、この作品を過去と現在、未来がつながるような彫刻にしたかった」と名和氏。
権威の象徴でもあるルーヴル美術館と、同じく権威の象徴だったエジプト・ピラミッドをモチーフにしたガラスのピラミッド。そして、黄金に輝く《Throne》。
この空位の玉座には、これからの未来、誰が、いや何が鎮座するのだろう。
最後に、名和氏は笑って、こう答えた。
「あえて、そこに誰もいないことを表現したかった。なので、心の中では、誰も座ってほしくないと思っています」
ルーヴル美術館 ピラミッド内に浮遊する空位の玉座《Throne》は、2019年1月14日(月)まで展示。
ルーヴル美術館ピラミッド内 特別展示
名和晃平 彫刻作品“Throne”
会期 2018年7月13日(金)~2019年1月14日(月)
会場 ルーヴル美術館ピラミッド内
所在地 Rue de Rivoli, 75001 Paris, France
開場時間 9:00~18:00(水・金曜 ~21:45)
休館日 火曜、12月25日(火)、1月1日(火)
料金 無料(ピラミッド内)
https://www.louvre.fr/jp/
「ジャポニスム2018:響きあう魂」
景山由美子
伊藤若冲を始めとする江戸絵画コレクター。株式会社景和 代表取締役。出版社での編集職、IT企業のコンテンツプロデューサーを経て起業。古美術を扱う傍ら、美術関係の執筆・編集のほか、若冲をテーマにした茶会や鑑賞会を主催。国内外の展覧会への出品や講演を通して、アートの世界観や作者の想いを伝えるべく、日々奔走中。
Feature
パリを彩る日本文化の祭典
「ジャポニスム2018」
文・撮影=景山由美子