森の中に佇む荘厳な祠堂

 ヒンドゥー教の遺跡であるミーソンには、それぞれ男性器と女性器の象徴である、リンガとヨニがいたるところに残されています。そして、それらご神体を納めているのがチャムタワーと呼ばれる祠堂です。現在は発掘されたうちの一部しか公開されていませんが、かつては約70ものタワーが林立していたと言われています。

遺跡の中には祠堂のほか、宝物庫などの建物も残る。

 さて、遺跡の見所はやはり祠堂です。その多くは8~13世紀頃に建てられたもので、驚くべきことにモルタルなどの接着材を使わずに赤茶色の煉瓦を積み上げていく、高度な建築技術が用いられています。

 また、少しずつ煉瓦をずらしながら積み上げることで生み出されるアーチ状の屋根は内部に広く高い空間を有し、ゆるやかな曲線を描くその姿は、チャム人の祠堂の特徴ともなっています。

遺跡の壁面を飾る精緻なレリーフ。

 祠堂の壁面を彩るレリーフも必見です。優しく微笑む女神像や細やかな唐草模様など、表面を覆う砂岩に刻まれたレリーフの数々もまた、当時の技術の高さを現代に伝えています。

 この他にも、遺跡に残されていた石像などの一部は、ダナン市内にある「チャム彫刻博物館」にも展示されています。博物館では時代ごとの歴史背景なども説明されており、遺跡見学前の予習にもぴったりです。

ダナン市内のチャム彫刻博物館には全国のチャンパ王国の貴重な遺物が集められている。

 ベトナムのヒンドゥー教文化という、いつもとは違う側面を見られるミーソン遺跡。歴史にあまり興味がない人も、緑の木々が生い茂る地の散策はまるで軽いハイキング気分。ビーチの旅のアクセントに、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

杉田憲昭(すぎたのりあき)
ベトナム・ホーチミン市在住のエディター&フォトグラファー。編集プロダクション・広告代理店「GRAFICA」代表。日本で編集者として活躍後、渡越。在ベトナム14年。女性誌や旅行誌、機内誌などの取材・撮影・コーディネートを通じ、幅広くベトナム情報を発信中。

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文・撮影=杉田憲昭