期待の若手シェフがつくる「トリサラ」の味

菜園で採れたニンジンを、発酵させたニンジンジュースと燻製した卵黄とで調理。ニンジンがあまりにおいしいのでソースはいらない派と、このソースあってこそでしょう派に分かれた一皿。そんなふたつの意見にも静かに耳を傾けるシェフの姿勢がエライ!

 もうひとつの大きな進化がレストランだ。新しく“ファーム・トゥ・テーブル”を掲げたシーフードレストランがお目見えした。

 農場から採れたてのものを食卓へというコンセプト自体は目新しくないが、その徹底ぶりがスゴイ。野菜やフルーツだけでなく鶏の卵も生まれたて! さらにはタイ各地で獲れるキャビアだったりハマチだったりを使用。こんな食材がタイで獲れるんだという驚きもふくめてテーブルを飾る。

「ハマチのタルタル、ホアヒンで獲れるオシェトラ・キャビアとウミブドウをまぶし、ハーブのロセラ粉をかけた、サワークリームを使ったヴィネグレットソース添え」。おいしゅうございました。

 この重要なレストランを任されたのが、気鋭の若手シェフ、ジミー26歳。ただいま評判のバンコク「ガガン」にいた料理人ながら、たいへんなキャリアの持ち主というわけでもない。

 「トリサラ」の名声をもってすれば、もっと経験豊富なシェフを呼ぶこともできると思うのだが……くしくも、アマン創業者のゼッカが、アマンプリの総支配人に抜擢したのが、26歳のアンソニーだった。

 既成概念にとらわれない、新しい視点を求めての起用と知られているが、シェフ・ジミーにもそんな期待が寄せられているのかもしれない。

左:新しいレストランに併設されてオープンしたバー。トワイライトタイムからの一杯は、リゾートの醍醐味です。
右:モダンな雰囲気をちょっと演出した新レストラン「PRU」は、茶色と白が基調のインテリアだ。

 実際、彼のあくなき探究心はそうとうなものらしく、来日した折に知ったウミブドウがタイで獲れると知るや、現地ではホタテのエサと扱われていたウミブドウを果敢に料理に取り入れている。で、すごく実直素直。ゲストの言いたい放題の感想に、ジッと耳を傾けている姿勢はプロだなと感心した。

左:2種類の小魚に、トマト、ミント、玉ねぎをくわえ、南タイで好まれる魚醤のひとつブドゥを使ったドレッシングでいただく。さっぱりとしたサラダながら強い香りのドレッシングが印象的な“ママ”のレシピ。
右:ターメリックをまぶしたハタハタのから揚げも南タイからの一品。さっくりおいしいカルシウムです。

 と、もちろん、従来からあるレストランのバージョンアップも抜かりない。洗練されたタイ料理やインターナショナル料理だけでなく、“ママ”のレシピによるタイ料理がくわわった。このレシピは、いまのタイの人も忘れてしまったような“おふくろの味”で、これまたすこぶるおいしい。

 手間ひまかけた料理ではないのがまた、素材を活かしていてじつにおみごと。どうしてもおいしそうに撮れなかったのだが、「墨ソースで茹であげたイカのガーリック風味」は絶品で、総料理長もお気に入りの一品とか。長いこと忘れられていたレシピで、一晩の漁を終えて家に戻った漁師に出されていた料理なのだそうな。

 この真っ黒なソースに白いイカが泳いでいるだけの、見かけシンプルな料理が「トリサラ」の上質を表現しているように思うのはうがちすぎか。伝統をふまえ、でも新鮮さを忘れず、大仰ではなく、だが上質な基礎に裏付けられたリゾートは、やはり、そんじょそこらのリゾートが太刀打ちできる代物ではナイということを教えてくれた。

ランチメニューからサービスのお兄さんイチオシの一品。「バナナの花のサラダ。チキンとエビを和えたヤングココナッツとチリペースト味」。スパイシーでビールにぴったり。
左:蓮池の奥にあるのが以前からのレストランで、この右側に新しいレストランができた。
右:朝食はビュッフェとオーダー方式のミックス。中華の点心もあるわ、野菜やフルーツを目の前でジュースにしてくれるわで、もう気分は朝からアゲアゲです。

Trisara(トリサラ)
所在地 60/1 Moo 6, Srisoonthorn Road, Cherngtalay, Thalang, Phuket
電話番号 076-310100
http://trisara.com/ja/

2016.12.27(火)
文・撮影=大沢さつき