聖フランチェスコを癒し、導いたアッシジの自然
町の最も重要な人物であり、キリスト教において重要な修道会の祖である聖フランチェスコは1182年にこの町で生まれます。裕福な商家に生まれ育った彼は、お金を奔放に使い、放蕩生活を送っていました。ある時、騎士になろうと軍隊に入隊しますが、戦争で捕虜になった末、重い病にかかってしまいます。
右:聖フランチェスコが神の啓示により修復したとされるサン・ダミアーノ修道院。
故郷に戻り、病は癒えますが、以前のように外に出ても楽しめなくなった自分に気づいた彼は、次第に森の洞窟などに籠って祈りや瞑想を行うようになります。聖フランチェスコが籠ったとされる洞窟や庵が、町の郊外に今もあります。
右:修道院内に描かれた聖母子のフレスコ画。
その地を訪れて見えるものは聖フランチェスコが籠った粗末な庵だけではありません。小さな鳥のさえずり、森の木々の葉をそっとなでる風の音、遠くに聞こえる小川のせせらぎ。雲は流れ、太陽は暖かく照らす。そこは静かで穏やかな空気に満たされています。きっと彼もアッシジの美しい自然の中で、心をも癒されていったのでしょう。
右:聖フランチェスコの祈りによって湧き出たとされている、カルチェリの庵にある井戸。
生前より崇められた聖フランチェスコですが、自然や動物を愛する心優しい青年であったとされています。熱心に布教するあまり、小鳥にまで説教したという逸話は、そういった彼の人柄から生まれたものかもしれません。
ここに来て聖人のように悟りが開けるかどうかは分かりませんが、豊かな自然の中、穏やかにあるこの町の空気は、訪れた人をゆったりと包み込んでくれます。豊かな自然に包まれる安堵感に、きっとやさしく癒されることでしょう。
藤原亮子 (ふじはら りょうこ)
イタリア・フィレンツェ在住フォトグラファー&ライター。東京でカメラマンとして活動後、'09年、イタリアの明るい太陽(と、おいしい食べ物)に魅せられて渡伊。現在、取材・撮影・執筆活動をしつつ、イタリアの伸びやかな景色をテーマに写真作品も制作中。イタリアでの日々をつづったフェイスブックはこちら。 https://www.facebook.com/chococogogo
文・撮影=藤原亮子