日本で最も古い国立公園のひとつが、瀬戸内海だ。最も広い国立公園も、やはり瀬戸内海。広域にわたって美しい景観が広がるこの地をフェラーリ・カリフォルニアTで駆け抜けた。
訪ねて分かった、この町が名作の舞台となる理由
フェラーリ・カリフォルニアTのルーフを開けると、乾いたエンジン音がダイレクトに耳に飛び込み、心地よく鼓膜を震わせた。フェラーリをこよなく愛したマイルス・デイビスの「フェラーリの音はビッグバンドのようだ」という言葉を思い出す。
音といい姿形といい、フェラーリは徹底して「美」を追求した車だ。繊細なステッチが施された滑らかな手触りの革ハンドルを握っていると、製品や商品というより作品に近いという印象を受ける。
実際に、カリフォルニアTの祖先にあたる1958年型のカリフォルニア・スパイダーは、オークションで約9億円の値が付いた。ある種の人々にとって、フェラーリはイタリアを代表する芸術品なのだ。
作品といえば、今回の目的地のひとつである尾道も、様々な映画の舞台になった町だ。実際に訪れてみれば、その理由が分かる。千光寺から瀬戸内海を見下ろす絶景、無数の急な階段。尾道を歩くと、多くの人が写真を撮っていることに気づく。映画監督だけでなく、旅人の創作意欲も刺激する町並みなのだ。
尾道から足を延ばして、しまなみ海道を行く。明るい陽射し、穏やかな海、やわらかい空気。瀬戸内海は、フェラーリの故郷に近い地中海に似ているのではないかとふと考える。
地中海と瀬戸内海を比べることに意味はないけれど、ひとつ大きな違いがある。瀬戸内の旅は橋のおかげで、車でアイランドホッピングを楽しめるのだ。絶景に囲まれて、庭園の飛び石を伝い歩くように瀬戸内の島を巡る。フェラーリでの移動はダイナミックだから、伝い歩くというより「けんけんぱをするように」と書くほうが近いかもしれない。
生口島まで来ると、四国はもう、すぐそこ。そこかしこに、旬のレモンやデコポンが実っている。島を一周したところで、西の空が夕焼けに染まった。瀬戸内は、きれいなオレンジ色であふれている。そんなことを考えながら、本日の宿に向かう。
撮影=柏田芳敬
文=サトータケシ
地図=シーマップ