元メディチ家の別荘「アカデミー・ド・フランス」

 スペイン広場は誰もが知るローマを象徴する観光地のひとつ。広場から伸びる階段は、映画『ローマの休日』でオードリー・ヘップバーン扮するアン王女がジェラートを片手に駆け下りる名シーンでおなじみだ。階段上部には美しいトリニタ・デイ・モンティ教会がそびえたつ。ここまではローマを訪れる者ならほぼ誰もが辿る定番コースだろう。

ローマの名所スペイン広場。広場から伸びる階段、その上部にそびえるトリニタ・デイ・モンティ教会。

 さて、ここからが知られざるローマのひとつである。そのトリニタ・デイ・モンティ教会を横目にしながらボルゲーゼ公園へ向かうと、道のなかほどで白い巨大な建物が視界に飛び込んで来る。一般に公開されているとは思えぬ敷居の高そうな門構えのせいか、旅行客たちは「何だろう? この建物」と心の中で呟きつつも素通りしてしまう。

トリニタ・デイ・モンティ教会を右手に見ながらボルゲーゼ公園方面へ進むと、突如、巨大な白い建物が目の前に現れる。
敷居の高そうな雰囲気を醸し出しているエントランス。実は一般客も入館可能。

 元メディチ家の別荘、現「アカデミー・ド・フランス」。それが宮殿の正体である。16世紀後半、当時、枢機卿だったフェルディナンド・デ・メディチが、一族の財力と野望を誇示する目的で建てさせただけあって、外観、内部、庭園と、どこを切り取っても文句のつけようがないほどの素晴らしさだ。

 19世紀前半にはナポレオンが家族のために同宮殿を買い取るが、現在は、フランス文化庁の管理下に置かれている。メインの活動は才能あるアーティストたちの支援で、審査をクリアした画家、彫刻家、写真家、デザイナー、美術評論家、作家、振付家、音楽家、舞踊家、舞台美術家、舞台衣装家と、様々な分野に渡る若き芸術家たちはフランス政府から支給される奨学金によって、1年から2年という長期間、この素晴らしい宮殿で生活をしながら創作活動に没頭することができる。フランス在住であれば国籍は問われず、かつて日本人アーティストも滞在したことがあるらしい。

文・撮影=村本幸枝(アッティコ)