一粒の種から始まった「モリーニ・デル・ポンテ」の挑戦
さんさんと降り注ぐ力強い地中海の太陽の光、乾燥した空気と肥沃な火山性の大地。恵まれた自然環境は小麦栽培に適し、「古代ローマの穀倉」とも謳われたシチリア島。ここで生産される小麦の質は高く、現在も生産量はイタリアNo.1を誇ります。名実共に小麦の名産地であるシチリアで、今、「蘇ったシチリア原産の古代小麦」がブームを巻き起こしています。
シチリア原産の古代小麦を蘇らせたのは、島の南西部にある老舗の小麦精製工場「モリーニ・デル・ポンテ」の4代目のオーナー、フィリッポ・ドラゴ氏。ラストサムライ(イタリア語でL’Ultimo Samurai)風に、「L’Ultimo Mugnaio(ルルティモ・ムニャーイオ)」と呼ばれています。Mugnaioは、小麦生産者、もしくは粉屋さん……。日本語に訳すと「ラスト粉屋さん」。カクッと膝が抜けそうなネーミングになってしまいます。まさに、彼のプロジェクトはラストサムライ的。
「シチリアは伝統的に小麦の産地ですが、1992年に私が家業を継いだころ、生産量を高めるために品種改良された種がほとんどで、精製された小麦粉には品質保持のために添加物を加えるのがスタンダードでした。伝統種は絶滅の危機に瀕し、小規模な畑は休耕状態。その一方で、消費者の間ではグルテンアレルギーなど、食物トラブルも増加していました」
シチリア農家と食事情に危機感を抱いたドラゴ氏は、研究者や農家と共にシチリア原産の小麦種の復活に着手。博物館に保存されていた古代小麦の種を譲り受けるなど、精力的な活動を続け、EUが定める「種子会社の登録品種以外の種子販売を禁止する」法律への戦いをも繰り広げ、最終的にシチリア原産種の古代小麦の販売を勝ち取りました。
「地元農家の協力なしに、私の夢は実現しなかったでしょう。大地から食卓まで、食べ物はひとつの流れのなかにあります。『パンは大地から生まれる』が私たちのコンセプトです」
文・撮影=岩田デノーラ砂和子