今はまだ、日本におけるメタバースはビジネス的なバズワードにとどまっていて、ビジネパーソンたちが仕事に絡めなければいけないとか、知っておかなければいけないといった何か強迫観念として捉えていると思います。実際に、ARやVRを肯定的に捉えている人の数は、主要国の中で日本がいちばん低い。でも逆に、日本人は一度火が付くと我も我もと一斉に飛びつくこともあるので、今後そういった局面がやってくる可能性もあると思っています」

 日本におけるメタバース普及において鍵を握るのが、本書の帯文を寄せている、メタバース文化エバンジェリストのバーチャル美少女ねむさんだと井上さんは言う。政府のメタバース政策研究会にアバターとして出席したり、地上波のテレビにも進出するなど、各所でメタバースの魅力を語っているねむさんとの出会いが、井上さんに本書を書かせたそものきっかけでもあった。

「メタバース内にいるねむさんと対談をしたのが初めての出会いで、その時私は、メタバースが普及する未来を確信しました。ねむさんは、メタバース内で本を読んだり、自分の本を他の人たちにあげたりできると言っていました。そういう話を聞くとメタバースが世界を劇的に変えると思わざるを得ないです。人から紙の本をもらって嬉しくても、電子書籍には物質感がないから、人にあげたり、共有したりする喜びはなかったと思うんです。でも、メタバース空間では、デジタルなのに書籍を人に渡すことができる。つまり、一回、物質性を失って平面的で無機質になった電子書籍というものが、再び物質性を獲得して立体的になるわけです。

 例えばKindleリーダーには自分の保有している本の表紙が平面的に並んでいるだけですが、メタバース内のバーチャル本屋さんやバーチャル図書館が実現すれば、立体的に本を閲覧できるようになる。しかも、本好きな人はたくさんの本を書棚にしまうことできないという本の収納問題に悩まされていますが、自分の書庫をメタバース内に持てたら解決できますよね。メタバースは空間が無限なので、自分専用のバーチャル巨大書庫を持つこともできます。読書好きな人ほどメタバースに興味がないという傾向がありそうですが、むしろそういう人にとってこそ、メタバース内で夢のような世界が実現するかもしれないのです。ネット上に本屋さんを作ってメタバースに対応にしたら、Amazonを超えられるかもしれません(笑)」

2023.01.04(水)