幕は下ろせない! 舞台ならではの失敗談

 松也さんの言葉からは三谷ワールドに期待している思いが伝わってくる。本作のタイトル『ショウ・マスト・ゴー・オン』は“1度幕を上げたら、その幕は下ろすな”という舞台人にとって鉄則ともいうべき言葉だが、5歳から舞台に立ってきた松也さんにとって、舞台上でハプニングやアクシデントが起きてしまった事態に直面したことはあるのだろうか?

「何度もありますね。小道具を持って出るのを忘れてしまったとか、台詞が出てこなくて飛ばしてしまったとか……。僕はそういうときの対応力があまりないほうだと自覚しています。

 例えば『メタルマクベス』に出演していたときのことです。劇場は360度すべてに展開されるIHIアラウンドステージ東京だったのですが、あの劇場は舞台装置のシステムがすべてコンピュータで制御されているそうです。

 事が起きたのはオープニングのシーンが終わって、僕はバイクで坂を下って舞台裏へはけていくときでした。その日は、バイクのハンドル操作を誤ってバイクごと横転してしまいました。おかげさまで怪我はなかったのですが、バイクを起こして動かそうとしたら、なんとバイクが壊れてしまって動かなくなってしまったんです。本来は僕がバイクを降りていくのと同時に扉も閉まっていく演出だったのですが、そのときは扉が僕を挟まないように緊急停止してくれました。

 僕の後に岡本健一さんが続いてバイクで引っ込んでいくことになっていて、機転を利かせた健一さんが僕の横にバイクをとめて、“乗っていけよ”とアドリブの芝居をしてくれました。普通に考えれば“サンキュー”と言って乗ればいいのに、僕は何を血迷ったのか、健一さんの親切を断って猛ダッシュで走って行きました(笑)。舞台装置のシステムが1度止まってしまうと復旧に時間がかかってしまうことを知っていたので、早くはけなければいけないって思ったんでしょうね。

 僕と健一さんが去った後に、僕らが蹴散らかした敵たちがスローモーションの動きでもがいているときに扉がしまってくという演出でしたので、なかなか扉が閉まらないから、彼らはずっともがく演技を続けていて、それが面白かったというお客さまもいました。結局、扉は無事に閉まって、芝居はなんとか再開できたのでよかったです。僕がはけないと次の場面へ移らないからと焦っていたのでしょうけれど、どうしてあの時、岡本健一さんの善意をぶっ飛ばしてしまったんでしょうね。自分でも乗ればよかったのにと思います(笑)」

世界配信されている松也さんの挑戦

 2022年は歌舞伎の舞台に立つことが少なかった松也さんだが、現在Netflixで歌舞伎を演じる松也さんを楽しむことができる。

 松也さんがご自身の研鑽として上演してきた自主公演の最終回で、2021年8月に下北沢の本多劇場で上演された『挑むvol.10〜完〜新作歌舞伎 赤胴鈴之助』とNetflixドキュメンタリー映画『生田斗真ドキュメンタリー〜挑む』が配信されているのだ。松也さんの歌舞伎にかける真剣な思いと友人である生田斗真さんが真摯に向き合う歌舞伎への挑戦を目にすることができるオススメのコンテンツだ。

「世界に向けて配信されていて、ご覧になった方から“良かった”と言っていただけましたし、世界中の多くの方に見ていただけるということが純粋に嬉しいですね。またここから次なる目標が生まれてきたらいいなと思っています。

 生田斗真くんについては彼自身の経歴と僕を通して見た歌舞伎に対する情熱や思いなど、すべてが積み重なってあれだけの演技ができたというところを見ていただきたいです。もちろん彼のポテンシャルが高いということもありますが、彼が歌舞伎としての動きや型を表現することができたのは彼が器用だとか、そんな単純なことではないことに気づいていただけたら嬉しいですね」

最近の“ハマりもの”は?

 2020年に歌舞伎界も含む日本の演劇界が全面的にストップしたとき、いち早くオンラインのトークイベントにゲスト出演するなど、積極的に活動していた松也さん。その時に“キャンドル”にハマったことはよく語っているが、今の松也さんの癒しになっていることについても伺ってみた。

「今はもっと趣味が増えました。キャンドルはもちろん集めていますし、スニーカーの収集にもハマっています。さらに古着にも凝っています。スニーカーに関しては七之助さんも僕の影響で一時はかなり購入していましたが、今はだいぶ落ち着いたようです。自分の好きなものが増えるとそれだけ楽しみも増えるので、良かったと思っています」

 最後に松也さんからの『ショウ・マスト・ゴー・オン』をご覧になる方へ、松也さんからメッセージをお届け。

「『ショウ・マスト・ゴー・オン』はとても面白くて、僕は出ずっぱりの役ではないので、演じながら僕自身も楽しめるなと思っています(笑)。三谷さんはあまり再演をなさらないので、今回は貴重な公演だと思います。お芝居が面白くてメンバーも楽しい方ばかり。形が決まってしまえば、(鈴木)京香さんにがんばっていただいて僕らは楽しく演じられるでしょう。それをお客さまにも楽しんでいただきたいですね!」

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シス・カンパニー公演『ショウ・マスト・ゴー・オン』

作・演出/三谷幸喜
【福岡公演】 2022年11月7日(月)~11月13日(日) キャナルシティ劇場
【京都公演】 2022年11月17日(木)~11月20日(日) 京都劇場
【東京公演】 2022年11月25日(金)~12月27日(火) 世田谷パブリックシアター
https://www.siscompany.com/showmust/

シネマ歌舞伎『三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち』

2022年12月7日(水)発売決定!
Blu-ray:8,250円(税込)
発売・販売元:松竹

尾上松也 (おのえ・まつや)

1985年1月30日生まれ、東京都出身。父は六代目尾上松助。1990年5月、『伽羅先代萩』の鶴千代役にて二代目尾上松也を名乗り初舞台。歌舞伎のみならずミュージカルやテレビドラマなど幅広く活躍。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022)に後鳥羽上皇役で出演中。

2022.11.12(土)
文=山下シオン
撮影=佐藤 亘