私たちとお客さんのグルーヴが一体になるのが舞台の喜び

――舞台は観客の前でお芝居をする「生もの」なので、コロナ禍で公演が中止にならざるを得ないなど厳しい状況でした。天海さんはこの3年間、どんな思いで日々過ごされてきましたか。

 私たち役者のお仕事は、医療従事者の方々のように直接ひとの生活に関わるような職業ではないし、今すぐに必要だと思われるものではないんですよね。

 この状況がちょっと落ち着いて、皆さんが「なんか楽しいものが見たいな」って思ってくださったときにやっと私たちの出番が来るので、「いつか必ず自分たちの仕事が必要とされるときが来る。だからそれまで頑張って、少しずつ力と思いを蓄えていよう」と思っていました。

――「家にいることが誰かの役に立つ」と頭では理解しつつも、もどかしい思いもたくさんされたかと思います。

 ステイホームが余儀なくされていたころは「どうしたら自分のことも自分の大切な人たちのことも守れるんだろう?」と考えたし、直接会えないので色々な人に電話をしましたね。

 母親にも毎日電話して「今日は大丈夫?」とか、友達にも「どうしてる?」って聞いたりして。メールよりも電話で話した方が、気持ちが伝わるかなと思って。

 私のお友達の中にも、お仕事がなくなったと聞くことが多かったから、声を聞いてお話することで、ちょっとでも安心できたり支えになったりすることが出来ればと思っていました。

――今回の「薔薇サム2」は、プロデューサーさんから「こんなご時世なので、明るくスカッと元気になれる作品を」というオファーだったと伺いました。今、改めてお芝居や音楽など「生」が楽しめる舞台の良さをどんなところに感じますか。

 こんなご時世になったからこそ、舞台上で演じる私たちのグルーヴが客席に届いて、客席のグルーヴも舞台に伝わってきて、というやり取りを肌で感じることの喜びと貴重さを余計に感じます。

 今までは普通にやっていたけど、それが当たり前じゃないんだということにお互いが気づき、理解したうえで「絶対これを観に行きたい!」とチケットを買って観に来てくださるお客様がいると思うと、一公演がとても貴重なものになるし「今日のこの回の公演は皆さんのために精いっぱいやりますから、楽しんでください」という気持ちがより強くなりました。

2022.09.15(木)
文=根津香菜子
撮影=鈴木七絵
ヘアメイク=林 智子
スタイリスト=えなみ眞理子