「生まれた命をどう肯定できるか、そのことを真面目に考えて作った映画です」

 是枝裕和監督が韓国で製作した最新作『ベイビー・ブローカー』が6月24日に公開される。本作のモチーフはいわゆる「赤ちゃんポスト」。韓国にも同施設があって、利用件数は日本より桁違いに多く、議論も盛んだという。

「実際に、児童養護施設で育った子供たちからも話を聞くことができました。彼らのうち何人もが『自分は生まれてきてよかったのか?』と切実な葛藤を抱えていた。その問いに答えられる作品にしなくてはいけない、という思いは強くありました」

 クリーニング店の主人サンヒョン(ソン・ガンホ)と、赤ちゃんポストの職員ドンス(カン・ドンウォン)。2人は違法養子縁組を仲介しているブローカーで、ある雨の晩、ポストに預けられた赤ん坊をこっそりと連れ去ってしまう。翌日、思い直して戻ってきた赤ん坊の母親ソヨン(イ・ジウン)が事件に気付き、2人は仕方なく白状するが、彼女も養父母探しに同行することに。奇妙な巡り合わせで一緒になった彼らの旅が始まる。

『パラサイト 半地下の家族』の主演として知られるソン・ガンホは、本作でカンヌ国際映画祭コンペティション部門最優秀男優賞に輝いている。

「ソン・ガンホさんとは国際映画祭の場で『いつか仕事をしよう』と話していたんです。ブローカーの存在は取材のなかで知ったのですが、今回のプロットの出発点も彼が日常を装いながら赤ん坊を横流ししている場面でした。とても軽やかな人です。軽さのうちに悲しみや可笑しみがあって、それがやっぱり抜群。また現場でも、自身の全テイクを覚えていて『テイク7より4の方が良かったかもしれない』と意見をくれるんです。そんな俳優は初めてだったし、僕もありがたかったですね」

 一方、以前から彼らをマークしていた刑事スジンも、取引現場を押さえるべく後を追っていた。演じるのは、是枝監督の『空気人形』で日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞しているペ・ドゥナだ。

2022.06.24(金)
文=「週刊文春」編集部