俳優の松坂桃李が、絵本作家の長田真作とコラボレーションし、絵本『まろやかな炎』を上梓する。

 長年、友人関係にあったふたりが初めてモノ作りをすべく向き合った本作は、いくつもの対話を重ね、完成されたという。その対話や松坂さんの存在がインスピレーションの源となり、長田さんがストーリーと絵を仕上げていった。

 出来上がった物語は、エリマキトカゲのマロが主人公。マロが炎と出会うことで内面に少しずつ変化が生まれ、日常が変わっていく様子が丁寧に、情熱を帯びて描かれている。

 マロを「僕自身ですね」と笑顔で語った松坂さん。確かに、やわらかい語り口の中で時折光る芯の強さやひたむきさは、マロにそのまま投影されているように思える。

 インタビューでは、他業種のふたりが共作した気になる経緯から始まり、俳優業への思い、最近の松坂さんの私生活のちょっとしたハマりごとまで語っていただいた。


今思うと、シンパシーみたいなものは感じていたのかも

――『まろやかな炎』の製作経緯からお聞かせください。松坂さんと長田さんのつながりは、もともと満島真之介さんが間に入っているそうで……?

 そうなんです。7年前、僕が満島真之介と共演したときに「ごはんを食べよう」となり、満島に「友達がいるんだけど、連れてきていい?」と言われて真作が現れたんです。そこが「初めまして」で。いろいろ話しているうちに、「実は絵を描いているんだ」、「えーほんと? どんな絵?」となり、デビュー前の水墨画の1枚を見せてもらいました。僕は「うわあ、すごいねぇ!!」と、彼の描く世界観に、一気にとりこになってしまって。そこからの付き合いになります。

――松坂さんのご友人関係は広く浅くというより、深く狭くというイメージがあるんですが。

 ええ、ええ。

――長田さんとここまで深く仲良くなった理由は、ご本人的にどう分析しますか?

 何だろう……。今思うと、シンパシーみたいなものは最初に感じていたのかもしれません。彼が描く絵のタッチがすごくタイプだったということも、大きいと思います。「これからデビューするんだ」、「絵本業界に向けて、こういうことを表現していきたい。こういう絵を描いていきたいんだよね」という話をずっとしていたんです。彼のそういう話に、本当に興味が尽きなかったといいますか。「同世代なのにこういう表現ができる人、本当に尊敬するな」と思ったんですよね。

――尊敬し合い、刺激し合える関係が今回のコラボレーションにつながったんですね。松坂さんは『まろやかな炎』において、インスパイアの源という立ち位置です。

 はい。原案といいますか、まあ……僕自身が原作、みたいな(笑)。コラボレーションすることが決まって、彼のアトリエにお邪魔させていただいて、いろいろ話をしました。雑談みたいなかたちで、お互いの仕事のことから日常に対する思いとか、「今日の朝、何食べた?」というくだらないことまで、まんべんなくしゃべりました。そこで話した僕の思いみたいなものを、真作が絵本として具現化してくれた感じです。

――アトリエでお話しをされた後、何回か過程をご覧になったんですか?

 それが、1週間ぐらいで描き上げたから見ていないんですよ。彼曰く、描き始めるまでに時間がかかるとのことだったので、そうなるまでに何回かアトリエに行って、お互いのことを話すということは何度かありました。けど、描き始めてから出来上がるまでは1週間ぐらいだったので、「できた!」とうちの事務所に持ってきてくれたときに、初めて目にしました。

――主人公のエリマキトカゲ・マロの生きる姿をご覧になって、「ああ、自分だな」という第一印象はありましたか?

 間違いなくありました。自分の心を俯瞰しているような感覚で……、そんな感じは初めてだったので、ちょっと気恥ずかしさもありつつ。

 全体を読んだときには、ただただ感動しました。描き上げた日数的には1週間ですけど、僕はなんだか長年の歳月を感じたというか、すごく詰まっている感じがしたんですよね。僕らの出会いが約7年前なので、7年間分の、お互いが根底で思ってきたことがかたちになっている感じが、すごくしたんです。

 言うならば、陶芸家さんが1枚のお皿を長年の歳月をかけて仕上げるように、「ついにできたぞ!」という感覚がありました。

――そうなると、「ここはもう少し、表現を変えたらどうかな?」という付け足しも特になく。

 まったくなく。「ここ、もうちょっとこうしたほうがいいかもね」なんていうことはとうに通り越して、「これはすごい……感動する」という気持ちでした。そこから、僕が朗読して、その朗読している最中に彼がペインティングするところが、今回のコラボレーションの最終形となりました。職種が違う人同士がひとつのかたちを作るって、こんなに楽しいことなんだと初めて気づきましたね。

2022.03.11(金)
文=赤山恭子
撮影=平松市聖
スタイリスト=カワサキタカフミ
ヘアメイク=Emiy