天草の海と大地が育んだ滋味深い料理を堪能
食事処はすべて個室。客室数と同じ数だけ個室があるので、ゆったりと過ごすことができる。
Villa Cの看板メニューは「天草大王の石焼き蒸し鍋」。天草大王を阿蘇の溶岩石で焼き、かつおの出汁をかけて一気に蒸し上げる豪快な料理だ。
肉料理はこの一皿のみで、あとは魚料理の数々が用意される。それゆえ、五足のくつは「東シナ海の魚を楽しむ宿」であると強調したい。
宿のすぐ下に定置網があって、10キログラムクラスのブリなどの青物がたくさん入るのだという。海流が速い東シナ海は魚の脂の乗りが違う。
この日のメニューは、タイとヒラメのお造りのほか、渡り蟹の真薯、緋扇貝、スズキのオランダ煮、ミズイカの握り寿司、アイナメの唐揚げなど。
渡り蟹の真薯は滋味深く、阿蘇の溶岩で焼く緋扇貝はヒモの部分が特においしい。塩は大江教会近くで作っている窯炊きの塩だ。
スズキのオランダ煮は揚げてから出汁醤油に漬けたもので、「揚げる」という調理法は南蛮から渡来したものであることからこの名がついた。
朝食は、窓の外に広がる青々とした東シナ海を見ながら満喫できる。
和食と洋食のどちらか選択することができ、洋食の場合は、サラダ、ジュース、ヨーグルトのほか、メインの皿にオムレツとウインナー、ベーコン、パンの盛り合わせが用意される。個性的な皿使いは和・洋融合のこの宿にこそふさわしい。
五足の靴文学遊歩道を散策
朝食を食べた後は、遊歩道を散策して少し体を動かそう。
そもそも、「五足のくつ」というちょっと変わった宿の名前は、明治40(1907)年に与謝野鉄幹、北原白秋ら5人の歌人が、東京から九州西部をたどり、新聞に寄稿した紀行文「五足の靴」から名づけられた。
文明開化で国が開かれたとはいえ、庶民の履き物はまだ草履が普通だった時代。新調した靴を履いた5人組は、安芸の宮島から佐賀・唐津を経て、長崎、天草を歩き、交代で紀行文を連載した。
5人が歩いた道を天草市が整備した散歩道は全長約3キロメートル、2時間程度のコースで、その一部がこの宿の敷地の中にある。
10分ほど行けば展望台までたどり着けるから、ちょっとした散歩にうってつけ。歌人の足跡をたどるプチ散歩に出かけてみよう!
石山離宮 五足のくつ
所在地 熊本県天草市天草町下田北2237
電話番号 0969−45−3633
料金 1泊2食一人3万3150円~
https://rikyu5.jp/
野添ちかこ(のぞえ・ちかこ)
温泉と宿のライター/旅行作家
「心まであったかくする旅」をテーマに日々奔走中。NIKKEIプラス1(日本経済新聞土曜日版)に「湯の心旅」連載中。著書に『千葉の湯めぐり』(幹書房)。国立公園満喫プロジェクト有識者会議委員(環境省)、岐阜県中部山岳国立公園活性化プロジェクト顧問、熊野古道女子部副部長。
https://zero-tabi.com/
Column
週末に、心が洗われる別世界へ出かけてみるのはいかが。少し車を走らせれば、そこにはおもてなしの心に満ちた極上の宿が待っている。旅行作家の野添ちかこさんが、1泊2日の週末ラグジュアリー旅を体験。その極上体験をレポートします。
文・撮影=野添ちかこ